
現市長が4選出馬を断念し、新人3人の戦いとなった。 自公と立憲民主、経済界が相乗りする元副知事の難波喬司(たかし)が、元自民県議の山田誠と共産公認の鈴木千佳をリード。3候補とも現市政に批判的で、難波と山田の政策が類似していることから争点がぼやけている。
昨年9月、台風15号が静岡市を襲い、記録的大雨により大規模な浸水被害や断水が起き、多くの市民に影響が出た。その初動遅れで市民から批判が殺到。市長の田辺信宏は議会に追及され続けている。4選に向けての出馬を断念するに至った。そこで非自民の最大会派、「創生静岡」が難波に白羽の矢を立てた。
静岡市北部の南アルプス地下を貫通するリニア中央新幹線工事を巡る市の対応も難波擁立に至った要因の一つ。市とJR東海は2018年、県道とトンネル整備をJRの費用負担で行うことを盛り込んだ基本合意書を締結した。県の頭越しだったため、知事の川勝平太は激怒。合意書には、県や周辺6市町が強く望む大井川の流量減少対策は明記されなかった。県の試算によると、岩盤を削ってトンネル工事をする影響で湧水が毎秒2㌧減るとされる。お茶の生産地として知られる地域でもあり、農業の死活問題だ。
15年には、川勝が田辺の怒りを買った。大阪都構想を参考に県と市の二重行政を解消するために静岡市を廃止するという「静岡型県都構想」を唐突に提唱したためだ。これまで続いていた県と市の定例会談が中止となった。
知事と市長も対話すらできない状況が続く中、両者の間を取り持ってきたのが難波だった。難波は3月26日、第一声で、「やはり現場主義。現場に行って、現物を見て、現実を根底から見て、解決策を考えることが大事。災害対策については、危機管理能力を強化するに尽きる」と話し、現市政批判を強めた。
「リニアの問題でも川勝知事と価値判断が一致していたわけではない。県都構想については(最初から)賛成の考えを持っていなかった。政令市として、しっかりやっていくのが一番大事」
市政与党で、県政と対立する最大会派の自民が推薦を決めるに当たり、こう説明。知事としっかり対話しながら市政運営することを誓った。
これに対し、静岡をイメージするお茶の緑とみかんのオレンジ色をシンボルカラーとする山田は「市民党」を前面に出す。出陣式では「全国の政令市の中で、60万人台になっているのは静岡市だけ」とし、企業誘致や子育て支援を強調。「企業や政党ではなく市民が静岡を変える」と訴え、人口減少に危機感を示した。
「強い郷土愛を持ってずっと静岡のことを見てきたからこそ、静岡を変えていく強い思いと決意がある」。難波との違いが明確になっていない分、地元愛でアピールする。
鈴木はリニア建設反対と前市政批判を前面に出し、独自色を強める。田辺が新年度予算に計上したサッカースタジアム、アリーナ、水族館施設の三つのハコモノに、台風被害に関する災害復興費の倍近くが充てられていることを批判。2候補との違いを明確にするが、支持は広がっていない。(敬称略)