安倍晋三元首相が奈良県で選挙演説中に銃撃され死亡した事件で、奈良県警は2月13日、殺人などの罪で起訴された山上徹也被告(42)を武器等製造法違反など五つの容疑で追送検し、一連の捜査を終結した。
安枝亮・県警本部長は「安倍元首相のご冥福を心よりお祈り申し上げる。このような事態を発生させたことは痛恨の極みであり、全職員が一丸となって信頼回復に努める」との簡単なコメントで事件の幕引きを宣言したのである。
奈良県警が「信頼」を失った理由は、歴代最長政権を担いなお大きな影響力を持っていた安倍氏の命を守れなかったという警備の重大な落ち度だけではない。山上容疑者の供述のリークや銃撃について起こるさまざまな疑問に正面から応えようとしないためである。
安倍氏は、山上被告が放った手製銃の弾丸で死に至り、事件は山上被告の単独犯行であるとの見立てで県警は捜査を続けた。しかし、その後、事件当時の現場映像がネット上に流れるなどし、さまざまな疑問が提出された。
それらは小紙連載以外には、新聞やテレビで取り上げられることはなかったが、「週刊文春」は、事件から7カ月以上を経た2月16日号から3週にわたり、「安倍元首相暗殺『疑惑の銃弾』」のタイトルで、暗殺事件に残る「疑惑」を取り上げた。
山上被告の母親が入信している世界平和統一家庭連合(旧統一教会)批判に血道を上げていた同誌が、なぜ今ごろになって、事件の最大の謎を取り上げるのか臆測を逞(たくま)しくしたくなるところだ。いずれにしても安倍氏暗殺についての疑問は、ネット世界だけの話ではないということが改めて明らかとなった。
本連載で既に指摘したように、安倍氏暗殺事件の最大の謎は、安倍氏の死因を巡って、救命に当たった奈良県立医科大付属病院の福島英賢医師と奈良県警の発表した司法解剖による所見が大きく異なることだ。福島医師は安倍氏の頸部の前方と右側2カ所と左上腕部に1カ所銃創とみられる傷があり、頸部から入った弾丸が心臓や大血管を損傷したとの所見を示した。さらに記者の質問に答える形で、安倍氏の心臓(心室)には「大きな穴」があったことを明らかにした。
これに対し、奈良県警は司法解剖の結果として、「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」と大きく異なる所見を述べ、心臓には損傷がなかったかのように説明したのである。昨年9月、奈良県議会でも県警は同様の説明に終始した。
これを疑問に思い、警察幹部から説明を聞いてきた青山繁晴参院議員は、自身のユーチューブ番組で、その後、警察側が心臓の傷について、銃創ではなく心臓マッサージをした際、圧迫で内部組織が破壊される「挫滅」によるものと説明していることを明らかにしている。
警察は、銃創とはしないまでも心臓に損傷があったことを認めたわけだが、それにしても、「挫滅」で心臓が破裂したという説明が通るのだろうか。
週刊文春は、専門家の懐疑的な見方を紹介している。ジャーナリストの山口敬之氏も、自身のネット配信番組で、事件当日、安倍氏の心臓マッサージを試みた3人ないし4人が医療関係者や救命医療の専門家であることから、心臓マッサージによる「挫滅」に対して懐疑的な見方を示している。
公判では当然、これらの謎が解明されなければならないだろう。(世界日報特別取材班)
安倍元首相 暗殺の闇 第1部 残された謎 (1)救命医と警察 背反する所見
安倍元首相 暗殺の闇 第1部 残された謎(2) 威力ある銃 1人で製造?
安倍元首相 暗殺の闇 第1部 残された謎(3) 凶行誘った誤情報・反アベ宣伝
安倍元首相 暗殺の闇 第1部 残された謎(4) 訪台決定期と重なる襲撃決意
安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間 (1) 空白の10年に深刻な変化
安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間 (2)「ジョーカー」と姿重ねテロ