安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間 (1) 空白の10年に深刻な変化
安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間 (2)「ジョーカー」と姿重ねテロ
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みから、当初は教団のトップ襲撃を狙っていた山上徹也容疑者だったが、新型コロナウイルスの世界的蔓延(まんえん)によりその機会が閉ざされ、襲撃の標的を安倍晋三元首相へと移していく。
山上容疑者は事件前日、ジャーナリストの米本和広氏に宛てた手紙の中で、安倍氏のことを「本来の敵ではない」と語っている。なぜ本来の敵ではない安倍氏を殺害するに至ったのか。
山上容疑者は事件後も安倍氏について「政治的な恨みがあったわけではない」と供述している。2019年10月に始めたツイッター上においても当初は「基本政策が信用できない野党や共産党がこうして(安倍)政権の重箱の隅をツツきつつ選挙で敗北し続けるのはある意味、キチンと国政が回っているとも言える」(同年11月)など、政治思想的には安倍政権を肯定しているとも取れる発言が目立つ。
また山上容疑者は同じ頃、韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄をちらつかせた問題や、中国による度重なる領海侵入の問題など、安全保障上の脅威に言及する投稿も多く、保守的な政治思想を持っていたと思われる。
しかし山上容疑者の安倍氏個人に対する見方はその後、少しずつ変化していく。20年8月の投稿では、ネット上の政治家と宗教団体との関わりを示唆する図を引用投稿しているが、安倍氏の欄には「日本会議・神政連・統一教会・ワールドメイト・親学」などと書かれている。ほかにも、複数の新興宗教団体と当時の閣僚たちとの“癒着”を表す真偽不明の情報だ。
21年1月には「安倍にはイカサマでもカリスマの欠片くらいはあった」と投稿するなど、この頃から「反アベ」的な投稿が目立つようになっていった。
19年10月に「(前略)安倍政権に言いたい事もあろうが、統一教会と同視するのはさすがに非礼である」としていた山上容疑者だが、21年2月には「虚構の経済を東京五輪で飾ろうとした安倍は(中略)統一教会を彷彿とさせる」と投稿するまでに評価が変わってしまったのだ。
安倍氏の祖父である岸信介元首相についても「安保闘争、後の大学紛争、今では考えられないような事を当時は右も左もやっていた。その中で右に利用価値があるというだけで岸が招き入れたのが統一教会。岸を信奉し新冷戦の枠組みを作った(言い過ぎか)安倍が無法のDNAを受け継いでいても驚きはしない」と持論を述べている。
しかし岸信介元首相は、教団の関連団体である共産主義の克服を掲げる政治団体、国際勝共連合と友好関係にあったが、教団を日本に招き入れた事実はない。
これらのことから、ネット上の誤情報などが、山上容疑者の怒りの矛先を安倍氏に向かわせた可能性は高い。そして21年9月、教団の関連団体とされるUPF(天宙平和連合)に安倍氏が寄せたビデオメッセージを見て犯行を決意したという。
犯罪心理学に詳しい東洋大の桐生正幸教授は、山上容疑者が安倍氏と教団を短絡的に結び付けている点に着目し、インターネットの偏った情報によって本人のゆがんだ認知が強化された可能性を指摘。「本人が検索するほど、安倍氏と宗教の結び付きを強化させるような情報だけが目に飛び込んできたのだろう」と推測する。
(世界日報特別取材班)
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