トップ国内【連載】安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間(2)

【連載】安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間(2)

「ジョーカー」と姿重ねテロ

安倍元首相 暗殺の闇 第2部 恨みと凶行の間(1)空白の10年に深刻な変化

現時点で取材班が確認できた山上徹也容疑者のインターネット上の投稿を見ると、自身の生い立ちや家族、政治、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への批判など、さまざまな発言を行っていたことが分かる。重い病を患い2015年に自殺した兄に関しては、「常に母の心は兄にあった」などとコメントしている。

米映画「ジョーカー」の影響を強く受けていたとみられる山下容疑者のSNS

そんな中でも目を引くのは、ツイッター上での、韓国・北朝鮮に対する攻撃的なコメントの多さだ。

「母を唆(そそのか)した韓国人によってかけられたオレのこの呪い」「オレが集団としての韓国人を許すことはないし、それに味方する日本人を許すこともない」、と敵意むき出しにしている。母親が入信した統一教会が韓国発祥であることから、教会への恨みが、韓国人への敵意にまで拡大している。

このように山上容疑者は日常的に、韓国や北朝鮮のニュースを引用し、批判的なコメントを添え投稿していた。しかし嫌韓感情を持つ人はインターネット上においては珍しいことではない。ネトウヨなどと呼ばれる人々も連日嫌韓の話題を投稿している。

ただ、この嫌韓感情を実際のテロへとエスカレートさせる人はほとんどいない。山上容疑者が教団に対する恨みを、ネット上の憂さ晴らしのみに留めておかず、犯行を決意するに至らせたものは何だったのか。

山上容疑者の投稿を追っていくと、彼が強い影響を受けたと思われる作品が浮かび上がってきた。それは19年公開の米映画「JOKER(ジョーカー)」だ。

 ストーリーは、病弱な母を支えながら道化師として暮らす主人公が、社会や同僚、母にまで裏切られ、だんだんと内に秘めた憤懣(ふんまん)が増大していき、社会への報復として殺人を重ねていくというもの。アカデミー賞にノミネートされるなど話題作だが、殺人を美化しているという評もある。

山上容疑者は19年10月、教団トップ来日に合わせ名古屋の会場に火炎瓶を持ち込もうとしたが、入場できず断念したと供述。その前日に映画館で観(み)たのが「ジョーカー」だったという。ツイッターの中で少なくとも15回以上「ジョーカー」の話題を投稿。「ジョーカーという真摯な絶望を汚す奴は許さない」との強い共感を示す投稿を見ても、山上容疑者はこの不運な主人公と自身の不遇を重ねていたと思われる。

昨年10月には、映画「ジョーカー」を模倣した事件が起きている。東京・京王線の車内で乗客を刃物で刺し、火を放ち殺人未遂容疑で逮捕起訴された被告(25)は、ジョーカーに似せた衣裳(いしょう)をしていた。

先の投稿から半年後、山上容疑者はジャーナリストの米本和広氏のブログに「何の遠慮がいろうか?我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん」とコメント。既に何らかの犯行を示唆しているが、見逃せないのは「解放者とならん」としている点だ。「ジョーカー」では、主人公が一種のダークヒーローとなり、社会に不満を持つ民衆がジョーカーのスタイルをして暴動を起こす。安倍氏銃撃は、それによって社会的な影響を与えることを狙ったという点で、テロ以外の何物でもない。

「復讐は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ。何故だろうな?」。このコメントに対し米本氏は「〇〇(山上容疑者のアカウント)さんにイエローカード」とし、しばらく投稿を控えるよう促している。


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