横手市の秋田県立近代美術館で開催中

横手市の秋田県立近代美術館で、同館の収蔵品から秋冬の景色に焦点を当てたコレクション展「山粧(よそお)いて山眠る」が開かれている。季語としての「山粧う」は紅葉で粧われた秋の山、「山眠る」は静まりかえった冬の山を意味する。収蔵品も、テーマで集めると新しい視点が展開。郷愁を誘う光景が目の前に現れる。
大正から昭和にかけての日本画、油彩画、木版画の45点と、1点だけ蒔絵(まきえ)の水差しがある。いずれも高い評価を受けた作品ばかりだ。
それぞれ興味深いが、鑑賞に来た60代夫婦がしきりに「昭和の時代が感じられて懐かしい」という柴田春光(しゅんこう)『狭布(きょう)の里(さと)』(昭和3年、絹本(けんぽん)着色、2曲1隻(せき)、約160㌢×約227㌢)をじっくり眺める。
今から90年ほど前の鹿角(かづの)地方の町並みを丁寧に描写。米屋、酒屋、魚屋、呉服屋、荒物屋(日用品を売る)が軒を並べ、通りを、刈り取った稲を馬の背に乗せ農夫が行く。十和田湖のマスの販売だったり、2階での機織りや大根干し、水田脇の堰(せき)では野菜を洗う光景……と往時をしのぶ情景が現れる。
写真右は、桜庭藤二郎(金岡村=現在の三種町生まれ)の『山湖』。再興第38回院展で初入選(昭和40年)。紙本着色。169㌢×216㌢の大作だ。紅葉真っ盛りの木々と山並み、それに杉の木の緑が湖面に映え華やぐ。落ち着いた中にもパワーがあふれる。同じ桜庭の『山河』は雪面を蛇行(だこう)する川と、煌々と照る満月が冬の透明感を見事に表現している。
近代日本画壇の巨匠・寺崎廣業(こうぎょう)の『高山清秋』(大正3年、絹本着色6曲1双)は、長野・群馬の県境域にある白根山からの眺望を描く。幾重にも重なる山々の奥行きと、青い山並みが印象深い。
ほかに福田豊四郎、勝平得之(かつひらとくし)、平福百穗(ひらふくひゃくすい)の作品も。絣(かすり)の着物にモンペ姿の秋田おばこが稲刈りする高橋萬年(まんねん)の『田』はいかにも秋田らしい。
ウサギを獲る猟師、枯葉の上ではしゃぐ子供たち、スキーやスケートでの遊び、キツツキ、ヤマブドウなど秋から冬の景色をほうふつとさせる作品が展開する。同展は来年1月4日まで。12月29日~1月2日は休館日。無料。
(伊藤志郎、写真も)