献金、内訳不詳で「被害」水増し
同じ全国弁連の主張に、どうしてこのような違いが生まれるのか。それは、川井事務局長は「霊感商法の被害」と「献金(の被害)」とを分けて語っているが、全国弁連が通常語る「霊感商法の被害」には「献金などの被害」も含まれているためだ。
例えば、20年の統計を見ると、被害件数(括弧内は被害金額=千円以下四捨五入)は総計214件(9億1807万円)だが、そのうち献金・浄財が141件(8億32万円)、内訳不詳・その他が46件(8703万円)で、この2項目の合計が件数で87・4%、金額では96・6%も占めている。
21年はもっと極端で、総計は20件(3億3153万円)だが、献金・浄財が8件(8796万円)、内訳不詳・その他が8件(2億4195万円)と、この2項目の合計が件数で8割、金額では実に99・5%を占めている。
いわゆる「霊感商法」については、1987年5月21日に当時の警視庁生活経済課長が国会で語った「人の死後あるいは将来のことについてあることないことを申し向けてその人に不安をあおり立て、その不安に付け込み、普通の人だったら買わないようなものを不当に高価な値段で売り付ける商法」という定義が定着している。
現在、警視庁ホームページに掲げられた定義も概(おおむ)ねこれを踏襲しており、国民も通常はそのように理解している。すなわち、一般消費者に対する物品販売の方法(売り方)や価格に問題があるとするものだ。全国弁連の紀藤正樹弁護士も7月26日、共産党国会議員団の「旧統一協会問題追及チーム」の会合で、「霊感商法の被害は憲政史上最大の消費者被害と言える」(しんぶん赤旗7月27日付1面)と述べている。
当然ながら、教団が「コンプライアンス宣言以降、信者が経営する会社における物販活動(で)、開運商法については一切なくなっている。これ以降に霊感商法だといって統一教会を訴えて損害賠償を求めたものは一切ない」(9月22日、家庭連合顧問弁護士)と主張する際の「霊感商法」もこの定義に沿うものだ。
これと関連し、安倍晋三政権下の2018年、立憲民主党議員も積極的に参加して行われた消費者契約法の改正で、「霊感等による知見を用いた告知」が契約を取り消し得る不当な勧誘行為に追加され、現在は実質的に霊感商法による契約は成り立たなくなっている。
川井氏が「霊感商法は摘発と法改正でやりにくくなった」と述べているのはこのような事情をよく理解しているためだろう。
21年までの12年間の被害統計を見ると、総計は確かに2875件、約138億2200万円だが、霊感商法の商品(以下、開運商品と呼ぶ)とされる印鑑、数珠・念珠、壺(つぼ)、仏像・みろく像、多宝塔の5項目を見ると、合計431件(総計の約15%)、約5億2900万円(同3・8%)にすぎない。
もちろん、それでもコンプライアンス宣言後の12年間に年平均で36件、約4400万円の被害が発生したのであれば、それは決して見逃せない規模だ。ただ、全国弁連の統計の「被害」件数と金額は同弁連がその年に把握したものであり、数年前から十数年前の「被害」がその年にカウントされることもあり得る。従って、09年以降の統計に書かれた「被害」が実際に09年以降に発生したものかどうかは、全国弁連にしか分からない。
そのような事情を加味しても、09年に印鑑146件、壺57件、数珠35件、仏像17件、多宝塔11件で合計266件、約1億9476万円にも及んだ開運商品関連の「被害」が21年には合計2件、91万円になったと自らの統計資料に出ているわけだから、本来の意味での霊感商法はほぼ根絶されたと評価するのが妥当だろう。
全国弁連は9月16日の集会で、今年も安倍晋三元首相の銃撃事件が起こる前の半年間の相談は数件だったと明らかにしている。これも先の評価を裏付けるものだと言える。
教団側に「霊感商法」に対する改善の意思も努力もなければ批判するのは当然だろうが、教団側が改善意思を宣言し、実際にそのための措置を実行し、その成果も着実に上がっているのに、8割も9割も水増しした「被害」を吹聴して改善がないように装うのは、弁護士団体としての信義にもとる行為ではないか。
川井氏は「昨年」の相談の中に「〇九年以降の被害」もあったと言っている。もし事実であれば、具体的にどの会社の誰(名前は匿名)が霊感商法の手法で印鑑等を販売したのかを明らかにすべきだろう。それが信者の会社や信者の行為と特定されれば、教団側の主張を覆す反証、少なくとも教団の宣言不徹底を指摘する事例となるはずだ。