【連載】全国弁連「霊感商法被害」の実相(上) 昨年の「被害」は2件、91万円

09年以降、明らかな減少傾向

全国弁連ホームページより

多くの緊急課題が山積する中、国会では世界平和統一家庭連合(家庭連合)による被害の救済策や教団への解散命令をめぐる議論が過熱している。その前提となってきた教団の過去のトラブルに関する情報は、ほとんどが全国霊感商法対策弁護士連合会(全国弁連)によるもので、特に霊感商法の被害については独占的に情報を提供し、世論形成を主導してきた。しかし、その統計資料には大きな問題が潜んでいることが明らかになった。(特別取材班)

「霊感商法は摘発と法改正でやりにくくなったため、既存信者からの献金への比重を大きくしたと思われます。それでも全国弁連には昨年、印鑑が九件、壺で五件の相談がありました。〇九年以降の被害も含まれています」

全国弁連事務局長の川井康雄弁護士は、「週刊文春」10月6日号掲載のフリーライター石井謙一郎氏による「太田光さん これを読んで! 『統一教会』何が問題なのか」の記事の中で、このように述べている。

川井氏がことさら「〇九年以降の被害」に言及したのは、旧統一教会が2009年、信徒による「霊感商法」関連の刑事事件の発生などを重く見て、「教会員が法令を遵守し、公序良俗に反する行いが無いように教団が責任をもって指導することを宣言した」(7月17日付教団声明文)ためだ。

いわゆる「コンプライアンス宣言」だが、教団が教会指導者に対し①物品販売活動に関わらない②献金と先祖の因縁等を結びつけたり、霊能者の霊能力を用いた献金奨励・勧誘行為をしない③献金先が統一教会であることを明示して受け取り、自由意志を尊重し過度な献金とならない――ことなどを注意・指導し、法令順守の徹底を期したものだ。

いわゆる「霊感商法」と関連して、大理石壺(つぼ)と多宝塔については既に輸入販売会社が1987年3月末をもって輸入・販売を中止し、信者の販売組織(92年に解散)も同時期に壺・多宝塔の販売を一切停止した。その後、一部の信者らが販売会社で印鑑や風水商品(水晶玉など)を販売し、2007年ぐらいから特定商取引法違反事件(刑事事件)が数件続いた。そのため09年に卸業者が印鑑や風水商品などの取り扱い中止を通達し、教団は法令順守(コンプライアンス)を徹底するよう指導したのだ。

このため、信者が関わった同法違反による摘発は10年1・2月(大分)と7月(東京)以降は起こっておらず、これは全国弁連の資料でも確認できる。いわゆる霊感商法については、「信徒による関連物品の販売自体が行われておらず、隠れて販売するなどの宣言破りでもない限り、事件の起こりようがない」(教団関係者)わけだ。

家庭連合の勅使河原秀行・教会改革推進本部長が9月22日の記者会見で、「私の認識では、09年以降、霊感商法というものは1件もない」と表明したのは、このような経緯を踏まえてのことだという。

川井氏はこれに対して、09年以降も霊感商法の被害がありますよと全国弁連の統計を用いて反論しているのだ。ただ、その統計を見ても09年以降、「被害」の減少傾向は明らかだ。しかも、川井氏の指摘には事実誤認がある。全国弁連の被害統計によると、昨年(21年)の印鑑と壺の被害件数は各々(おのおの)1件ずつで、印鑑9件、壺5件(そのほか仏像1)の被害は一昨年(20年)のものだ。つまり、川井氏の発言は「全国弁連には昨年、印鑑が一件、壺で一件の相談がありました」と訂正されなければならないのだ。

全国弁連はコンプライアンス宣言後の10年から21年までの12年間に2875件(年平均240件)の被害相談があり、被害額は約138億円(同11億5千万円)に及ぶと発表してきた。それと比べ川井氏が述べた被害件数は昨年はもとより、一昨年でも驚くほど少ない。被害額も、20年は仏像1件(150万円)を含めても2278万円、21年は91万円しかない。

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