中国が神経尖らした安倍氏訪台
安倍元首相ほど台湾有事に関して積極的な発言をしてきた政治家はいない。昨年12月に台湾のシンクタンクが開いたシンポジウムに安倍氏はオンラインで講演。「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」と述べた。これに対し、中国側は「強烈な不満と断固反対」を表明した。
今年4月には、「プロジェクト・シンジケート」に論文を投稿。ロシアのウクライナ侵攻と台湾有事を重ねた上で、米国はこれまで続けてきた「曖昧戦略」を改め、中国が台湾を侵攻した場合、防衛の意思を明確にすべきだと主張した。
同論文は米紙ロサンゼルス・タイムズや仏紙ルモンドなどにも掲載されたが、中国外務省の趙立堅報道官は記者会見で「これに関わる日本の政治屋は台湾問題で言行を慎み、『台湾独立』勢力に誤った信号を発するのを防ぐべきだ」と非難した。
その安倍氏が今年7月に訪台することが台湾のインターネットメディア「風傳媒」で報じられたのは5月22日。これを受けて翌23日、中国外務省の汪文斌副報道局長は記者会見で「日本は中国人民に台湾問題で歴史的な罪を負っており、言動を慎むべきだ」と述べ、訪台に反対する考えを示した。
中国当局が神経を尖(とが)らせ、できれば阻止したいと考えていたであろう安倍氏の訪台が6月末に正式に決まる。台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表は、27日に来日した台湾日本関係協会の蘇嘉全会長とともに安倍氏を表敬訪問し、正式に訪台を招聘(しょうへい)し、安倍氏は快諾した。予定通りいけば、安倍氏は敬愛する李登輝元総統の命日である7月30日に訪台するはずであった。
安倍氏の台湾有事に関する発言は、世界の政治家の中でも際立っていた。中国にとっては、最も厄介で我慢のならない存在だったことは確かである。安倍氏暗殺は、このような台湾をめぐる安倍氏と中国との緊張関係の中での出来事であった。事件の全容解明には不可欠の観点である。
(世界日報特別取材班)
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