安倍晋三元首相が、凶弾に倒れてから3カ月以上が過ぎた。安倍氏が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に近いと容疑者が思い込んだことが、犯行の動機との供述がリークされたが、事件の真相・全容は闇の中だ。在任期間憲政史上最長の元首相の命を奪った暗殺事件の真相を探る。(世界日報特別取材班)
安倍晋三元首相の銃撃事件で最も不可解なのは、安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢医師(教授)の所見と、奈良県警の司法解剖の結果が真逆に近いくらい異なることだ。
安倍氏は7月8日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙遊説中、背後から近づいた山上徹也容疑者の手製銃で銃撃された。午後0時20分、橿原市の奈良県立医大付属病院に搬送されたが、心肺停止状態にあった安倍氏を蘇生させることはできず、5時3分に死亡が確認された。
同日、午後6時すぎに行われた記者会見で、福島医師は、安倍氏の体には、頸部(けいぶ)の前方と右側の2カ所と左上腕部に1カ所、銃創とみられる傷があり、「心臓および大血管損傷による失血死」との見方を示した。記者の質問に「心臓の傷は大きいものがあった」と述べ、さらに心臓のどの部分に穴が開いたのかとの質問に、福島医師は「心室の壁」と答えている。
一方、奈良県警は事件の翌9日の会見で、「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」という司法解剖による所見を発表した。失血死という点は同じだが、心臓の損傷を指摘した福島医師の所見とは大きく異なる。山上容疑者の2回の発砲は、安倍氏の背後からで、安倍氏は1回目の発砲の後、上半身を後ろへ振り向いた際、2回目の発砲で被弾したとみられるが、首の前部と右側から弾が入り心臓に達したのだとしたら、致命弾は山上容疑者以外の何者かによって発せられた可能性も排除できなくなる。
この点に疑問を持った自民党参院議員の青山繁晴氏は、7月20日、自民党本部で開かれた治安・テロ対策調査会に出席し、その内容を自身のユーチューブ番組「ぼくらの国会」で明らかにしている。弾がどのように入ったか、との青山氏の質問に対し、警察庁幹部の説明は、致命弾とみられるものは左上腕部から入って、鎖骨下動脈にも弾が当たったというものだった。青山氏の質問に答えて、警察庁幹部は他に安倍氏の体内から球状の弾丸が1発見つかっているが、致命弾は、貫通しない盲管銃創を残してはいるが、弾自体は見つかっていない、ことも明らかにした。この「消えた致命弾」も大きな謎である。
失血死による死亡というと、普通ある程度の時間を要するが、安倍氏は即死に近い状況だった。事件直後、現場のすぐ前のビルにあるクリニックから駆け付けた中岡伸悟医師は持参のAEDを取り付け心臓マッサージを行ったが、うまくいかなかった。安倍氏の心臓は既に止まっていた。
この状況からは、致命弾は安倍氏の心臓を損傷していたように思われる。しかし、救命治療に当たった福島医師は、会見の終わり近くで、「頸部から入って来た弾が、心臓を損傷し肩口から出て行ったということでいいのか」との記者の質問に、「今のところそう考えていますが、専門家が見ると違うかもしれません」とも述べている。
福島医師が言う専門家とは司法解剖を担当する医師を指すと思われるが、東京都内の病院に勤めるある医師は言う。「司法解剖というのは、それを行う前に警察から、どの方角から銃撃されたなどのブリーフィングを受ける。それが先入観になることもあり、今回、頸部の傷が必ずしも重視されなかった可能性がある」