民放テレビ局TBSが看板番組「報道特集」をめぐり、報道機関としての資格が問われる事態に陥っている。世界平和統一家庭連合(旧統一教会=教団)批判特集で、過去に信者を長期にわたって拉致監禁し強制改宗を行った親族(元信者)を登場させたことに対して、被害者が質問状と抗議文を送った。しかし、TBSは回答と謝罪を拒否した。なぜ悪質な人権侵害の加害者を出演させたのか。その背景を追った。(世界日報特別取材班)
9月1日付でTBSに抗議文を送ったのは教団の信者で、「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤徹氏(58)。後藤氏は1995年9月から2008年2月までの12年5カ月間、信者の間で「職業的脱会屋」として知られる宮村峻氏とキリスト教牧師の松永堡智氏の指導を受けた兄夫婦らによって拉致監禁された上で脱会を強要された被害者だ。その違法性は親族だけでなく宮村、松永両氏についても2015年、最高裁判決で確定している。
8月27日の「報道特集」は、1988年から97年の間に教団の合同結婚式に参加し、その後、脱会・離婚した元信者(女性)5人を出演させた。その内容は「合同結婚式は、この教団の人権侵害の最たるもの」などと、合同結婚式と教団を批判するものだった。抗議文によると、出演者のうち「洋子」と名乗る女性が後藤氏に対する「異常な人権侵害」を行った実行行為者の一人、兄嫁だった。
後藤氏に対する人権侵害の悪質さは期間の長さだけではない。監禁末期、兄夫婦から十分な食事を与えられなかった結果、栄養失調状態に陥った。このため、監禁されていた東京・荻窪のマンションから解放された時、身長182㌢の体はやせ細り、体重は約50㌔まで落ち、全身筋力低下、廃用性筋萎縮症と診断された。これらは裁判で認定された事実だ。
このため、後藤氏は抗議文で「私を監禁して異常な人権侵害を行い、その行為の違法性が最高裁において確定した人物を出演させながら、その非人間的な人権侵害について謝罪の弁を述べさせるなどのことは一切せず、家庭連合に対する一方的な批判をさせ、その発言を公共の電波で流した」と憤りを露(あら)わにした。そして、公正中立な報道を逸脱しているTBSには「公共報道機関としての資格はない」と痛烈に批判している。
その上で、①出演した元信者5人の人選プロセス、特に宮村氏の関与の有無②兄夫婦も拉致監禁され、無理やり信仰を捨てさせられた過去があるが、他の4人も同様の手段によって棄教したのではないか③最高裁で違法性が確定した人権侵害について一切報道しないのはなぜか④TBSは公共の電波を用いて宗教弾圧を行っているだけではないか。そうではないというなら理由を説明してほしい――の4項目の質問に対する回答と後藤氏自身と視聴者への謝罪を求めた。
教団によると、1960年代からこれまでに約4300人が強制脱会の被害に遭っている。中でも、80年代と90年代は、教団信者に対する強制脱会を目的とした拉致監禁が多発した時期。年間300件を超える年もあった。後藤氏の兄嫁をはじめ出演した5人はすべてこの期間に合同結婚式に参加しその後、脱会した元信者だ。被害の中には、宮村氏が関与したケースが相当数ある。
被害者の抗議に説明・謝罪拒否
従って、質問状にあるように、兄嫁だけでなく、残りの4人のうち何人か、あるいは全員が拉致監禁によって脱会した可能性と、番組出演に宮村氏が関与したと考えることには十分合理性がある。
だが、TBSは先月7日付で、質問についての回答も謝罪も拒否することを通知してきた。これに対して後藤氏は「TBSの人権感覚を疑う」としながら、「当会はかつて海外の人権擁護家らと連携し、拉致監禁による脱会強要を撲滅すべく国連にまで働き掛け、その結果、2014年7月に国連自由権規約人権委員会が日本政府に対して人権勧告を発するまでに至った経緯がある。今回のTBSの報道姿勢についても、海外の有識者や人権擁護家らを含め、広く世に問うていく」としている。
本紙もTBSに対して、元信者の出演に宮村氏の協力があったか、同氏が最高裁判決で違法性が確定した脱会強要に関与していたことを知っていたかなどを確認する質問状を送ったが、先月27日付で「放送あるいは配信したこと以上の答えはしていない」と説明を避ける書面を送ってきた。