経済政策アベノミクス 成長重視で雇用・税収増やす 【連載】安倍政治のレガシー(3)

伊勢志摩サミットで議長記者会見を行う安倍晋三首相=2916年5月27日午後、三重県 志摩市

旧民主党政権時の円高、デフレ経済からの脱却を目指した、2012年12月からの第2次安倍晋三政権。そのために、同政権が採用した経済政策が、①大胆な金融政策②機動的な財政政策③民間投資を喚起する成長戦略――の「3本の矢」から成る「アベノミクス」である。

安倍氏は首相就任早々、このアベノミクスを推進して「ロケットスタートを切る」とし、前政権時の沈鬱(ちんうつ)な状況を見事に一掃した。

11年3月の東日本大震災による打撃もあり、経済は深刻なデフレ状況の中、円相場は1㌦=70円台の円高、株価も8000円台に落ち込んでいた。

しかし、アベノミクス、特に大胆な金融政策は黒田東彦日銀総裁が「異次元」の緩和政策いわゆる「黒田バズーカ」を実施し、積極的な財政政策と呼応して、それまでの円高・株安の流れを劇的に転換し、円安・株高のムードを演出した。

デフレ脱却を1丁目1番地としたアベノミクスの基本的な考え方は、成長重視による「強い経済」の再生である。安全保障と相まって、国民の安全安心を守るのも「強い経済」があってこそだからである。

日本経済はアベノミクスにより円安・株高を背景に企業収益の改善、資産効果による消費の増加などを通じて徐々に回復。経済を好転させ、緩やかながらも戦後2番目の長期の経済成長を実現させた

成長重視の政策による景気の好転を主因に税収が増加し、国の基礎的財政収支の赤字は2012年度の26兆円から、コロナ禍前の19年度は14兆円と半分近くに減少した。

金融面ばかりでなく、実体経済面でも失業率が12年の4・3%から19年は2・4%に低下。就業者数は安倍政権の約8年間に400万人増加し、雇用を大幅に増やしている。

惜しむらくは、12年度の0・8%成長から13年度は2・6%成長と好調なスタートを切りながらも、2度の消費税増税により、その後の経済が低成長を余儀なくされたことである。

アベノミクスの終盤は、米中貿易摩擦の激化を主因に18年10月から後退局面に入り、同年度の成長率は0・3%に低下。20年度はコロナ禍でマイナス4・6%の大幅なマイナス成長となった。目指したデフレ脱却は道半ばとなったが、正社員の有効求人倍率が1を超えるなど完全雇用に近い状態を導き出したことは十分な成功といえる。

消費税増税は前政権時の民主と自公の3党合意により決められ、これに従ったものだが、好スタートを切ったとはいえ、最初の14年4月の早過ぎた増税(消費税率5%から8%へ)により経済は勢いをなくし、14年度はマイナス0・4%成長に。

その後も増税の悪影響は尾を引き、15年10月に実施予定だった2回目の増税はさすがに2度先送りして19年10月に実施した。予定通りに実施していたら、デフレ脱却はおろか、景気は腰折れしデフレに逆戻り、元の木阿弥である。もちろん、強い経済もつくれない。

21年12月に安倍氏が中心になり、自民党の政務調査会に最高顧問として「財政政策検討本部」を立ち上げたのも、自らが経験した、性急な財政健全化を図ろうとすることの弊害を教訓として学び、経済を成長させる財政政策の在り方を研究するためでもある。

(床井明男)

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