戦後の虚構に挑み続けた精神の軌跡

戦後の批評界、思想界に大きな足跡を残し、平成11年に亡くなった江藤淳のKindle版全集の刊行が始まっている。
7月21日に第1巻「奴隷の思想を排す」、第2巻「新版 日米戦争は終わっていない」、第3巻「犬と私」の3巻が同時発売された。8月は第4巻「海賊の唄」、第5巻「随筆集 夜の紅茶」と以後毎月2巻ずつの発売となる。『江藤淳は甦える』(第18回小林秀雄賞受賞)の著者、平山周吉氏の責任編集になる。
江藤淳には生前『江藤淳著作集』(全11巻、講談社)、『江藤淳文学集成』(全5巻、河出書房新社)があるが、著作が多数あり『江藤淳全集』は刊行されていない。しなやかな感性とラジカルな思考、鋭く激しい言葉で時に論争を呼ぶなど、江藤は戦後の文壇において常にその発言が注目されてきた。
一方で、米国に渡り占領期の連合国軍総司令部(GHQ)による検閲の実態を明らかにし、戦後の言論空間の虚妄性を暴き出した。また、随筆では人間・江藤淳の豊かな感性が息づく官能性豊かな文章を残した。全集はそれら江藤のまさに八面六臂(ろっぴ)の活躍、膨大な文業の全体を網羅するものとなりそうだ。
「江藤淳の膨大な仕事。その日付が即ち戦後史である。全集なくして戦後史なし」と片山杜秀氏が推薦の辞を寄せている。
各巻、税込み1200円。
(特別編集委員・藤橋 進)





