憲政史上最長期間、首相を務め退任後も「日本を取り戻す」ために戦ってきた政治家の、このような最後を誰が想像しただろう。安倍晋三元首相の死によって生じた空白、損失はあまりに大きい。世界がますます不安定な状況に突入する中で、それはわが国だけにとどまらない。
戦後の首相の中で安倍氏ほど確固とした国家観を持って、政治信条を愚直に語った首相はいない。中でも憲法改正はその政治的ライフワークであった。
結果責任が問われる政治の世界において安倍氏は、時には妥協もするリアリストだった。そのリアリストの感覚が卓越したものがあったことは、6回にわたる国政選挙を勝利したことにも示されている。しかし、そういう政治活動の根底には、少年のような純粋な志があった。それゆえに愛され、反対派からは憎まれた。
実際、憲法改正反対勢力からは、「安倍を倒せ」と異常なまでの攻撃を受けてきた。それは揺るがぬ信条と政治力を持つ安倍氏への恐れの裏返しでもあった。
首相在任中、安倍氏は日本の安全保障を揺るぎないものとするため、米国との同盟関係をこれまでになく強固なものとした。そればかりではなく地球儀を俯瞰(ふかん)する外交を展開し、外交の場でも日本の存在感を高めた。戦後の日本の首相でここまでの存在感を示した首相はいなかったが、なぜか国内では正当に評価されなかった。
生前、当然受けてしかるべき評価を国内で受けることができなかったのも、結局は憲法改正し日本を取り戻すことを望まない反安倍勢力からの雑音が絶えなかったためだ。
首相退任後も反改憲勢力の執拗(しつよう)な安倍攻撃が続いた。しかしこれも、憲法改正を実現し、わが国の安全保障を確固たるものへと導き得る最大の実力者は安倍晋三との認識があったからに他ならない。
志半ばで安倍氏は凶弾に倒れた。その空白を埋めることは容易ではないが、その遺志を引き継ぐものが、その空白を埋め志を実現していかねばならない。
(特別編集委員・藤橋 進)