未完の原画200点余初公開

鳥類画家の小林重三の挿絵 金沢ふるさと偉人館
石川県金沢市の金沢ふるさと偉人館で開催中の「中西悟堂 まぼろしの野鳥図鑑」では、「日本野鳥の会」の創始者・中西悟堂(1895~1984)が構想し、未刊に終わった図鑑の原画200点余りが初公開され、来館者に大きな感動を呼んでいる。
タイトルにある「まぼろしの野鳥図鑑」とは、悟堂が企画した図鑑で、生前刊行を目指していた。ところが出版社の倒産や当人の多忙などで出版されず、挿絵だけが悟堂の手元に残されていた。挿絵は鳥類画家として当代随一と称される小林重三(しげかず)(1887~1975)が描いた彩色原画だ。
小林はもともと水彩画家として出発し、絵画の筆法、描法を徹底して学んだ。専門画家でもあった強みから、鳥の形体、色彩に詳しくなってからの鳥画は、「標本画のそれとは異なり、確実精錬でおのずから生気を秘めた名品となっている」と悟堂は高く評価している。展示されている小林の野鳥たちは、鋭い観察力のもと生き生きと描かれ、絵から羽ばたいても不思議ではないほどリアル感がある。
人間と野鳥との関わりを見ると、戦前の日本では鳥は「捕まえる」「食べる」「飼育する」との考え方が一般的だった。それに対して悟堂は、「鳥は自然の生態を観察して楽しむもの」との画期的な考えを提示した。それに賛同した文化人や鳥類学者と共に、1934(昭和9)年「日本野鳥の会」を設立し、初代会長に就任した。同時に機関紙『野鳥』が創刊され、創設時の会員名簿には泉鏡花や北原白秋、金田一京助、南方熊楠(みながたくまぐす)ら日本文化・学会の広範にわたる多士済々が列挙されている。
探鳥会などの愛鳥運動が普及し、野鳥への世間の関心が高まるにつれ、4年後にその手助けになるようにと、悟堂は実用的で携帯できる安価なガイドブック『野鳥ガイド 上巻・陸鳥篇』を執筆、出版した。そのカラー版ともいえる『原色野鳥ガイド』の制作を目指した。その『原色野鳥ガイド』は発刊には至らなかった。
学芸員の山岸遼太郎さんは「流麗で繊細な筆致で描かれた小林の鳥の絵とともに、悟堂の思い描いていた野鳥図解の世界を堪能して欲しい」と見どころを説明している。
同展では、原画の保存のために作品を入れ替えながら8月28日まで展示する。
(日下一彦)