
『新・綱領教室』第4章「民主主義革命と民主連合政府」の主要なテーマが自衛隊とともに「天皇制」の問題である。「天皇制」を「反動的なもの」とし、転覆、打倒、廃止などの対象としてきた共産党はいま、「憲法の前文を含む全条項を守り、とくに平和的民主的諸条項の完全実施をめざす」との立場から容認に転換している。
これを明確にしたのが、2004年の綱領改定の時だ。そこで「『国政に関する権能を有しない』などの制限規定の厳格な実施」などを条件に、民主主義革命の課題から「君主制の廃止」を削除した。提案時には、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟を中心に反対が多かったが、その力は及ばなかった。
不破議長(当時)は皇室への距離を縮めようと同年11月17日夜、デンマークの女王マルグレーテ2世夫妻が東京・赤坂の迎賓館で開いた夕食会(日本側の主賓は天皇、皇后両陛下)に出席した。そのことを翌日付の「しんぶん赤旗」で大きく報じ、皇室外交がスタートしたと“歴史的な意義”を強調した。
その後、天皇陛下をお迎えしての国会開会式にも出席するようになった。「わが党が天皇制に反対する立場で欠席しているとの誤解を招いている」というのが理由だったが、これも皇室というステージを利用してのソフト戦術にすぎなかった。
共産党が綱領で「世襲の制度は人間の平等と両立しない」と指摘するように、「廃止」に向けて世論工作を最優先に運動を続けるのが革命への道筋と変化している。
志位委員長は「綱領が『全条項をまもる』という立場をすっきりと打ち出したことは、憲法9条擁護を中心とする憲法改定反対のたたかいを発展させるうえでも大きな威力を発揮することになった」と強調。「天皇の制度への賛否の違いを超えて、当面の民主的改革のプログラムに参加するすべての人びととの統一戦線をつくり、それを安定的に発展させることができるようになった」と語っている。
つまり、天皇条項を当面の間だけ守ることが統一戦線の結集をより容易にし、党勢を強めるのに役立つという戦術レベルの話なのだ。
「天皇の制度の存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである」と綱領が示している通り、将来の民主連合政権で共産党の力が強まり「国民多数の声」がそれに賛同するという情勢が熟したときに、「解決」すなわち廃止にもっていくとの筋書きなのだろう。現状では国民の皇室への親しみは強いので、先送りしたにすぎないのである。
共産党が戦後の1946年6月、現憲法の対案として作った「日本人民共和国憲法草案」(日本共産党憲法草案)は「天皇制はそれがどんな形をとろうとも、人民の民主主義体制とは絶対に相容れない」と記している。
党の目指す「社会主義・共産主義の社会」、すなわち「人民共和国」での改悪憲法には「天皇制」廃止が盛り込まれることになろう。
(日本共産党100年取材班)
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