トップオピニオンインタビュー健康長寿都市目指して―長野県佐久市市長 柳田清二氏に聞く

健康長寿都市目指して―長野県佐久市市長 柳田清二氏に聞く

循環バス廃止 デマンド交通へ 安心で魅力あるまちづくり

やなぎだ・せいじ 昭和44年生まれ。平成5年、中央大学経済学部卒業。代議士秘書,佐久市議会議員1期、長野県議会議員3期を経て、平成21年、佐久市長初当選。現在4期目。全国青年市長会顧問、長野県市長会理事、無電柱化を推進する市区町村長の会会長などを務める。

最前線で挑戦し続ける

人口10万人弱の佐久市は長野県の中で4番目に大きい市である。市は、豊かな自然環境、充実した医療施設、新幹線佐久平駅周辺の開発を活用しながら、さらに魅力あるまちづくりに邁進(まいしん)している。柳田清二・佐久市長に聞いた(聞き手・青島孝志)

佐久市の強みである「健康長寿」は、市長の公約でも「世界最高健康都市の構築」として掲げられていますが、これまでの取り組みや成果は。

佐久市民の健康長寿は、JA長野厚生連経営の佐久総合病院抜きに語れません。この病院は昭和19年、わずか20床から開業。日本で最初に病院給食を始めました。これは、食生活がしっかりしている人の方が早く回復するためでした。やがて800床を超える基幹病院として、地域の人たちの大きなよりどころとなってきました。佐久市立国保浅間総合病院が取り組んだ、塩分摂取を抑える減塩運動と一部屋温室運動の実践も特筆すべきもの。これは、寒さが脳疾患に多大なストレスになるため、一部屋を暖めて家族が集まる。これが家族関係にも健康にも良い、というものです。

こうした取り組みが、長野県の長寿日本一になった要因ですが、地域の人たちの命を救ってきたという経験を持つ佐久市では、医療関係者のチームとしての専門職相互の信頼関係の深さ、医療関係者と地域住民の強い信頼関係が、市民の健康と安心感を支えているのです。

私が初めての市長選出馬の際、設備が老朽化した、佐久総合病院の再建を公約に掲げて当選。市民の後押しもあって高度先端医療を担う医療センターの新築が実現できました。

地方は人口減少で苦戦しています。佐久市の場合、これに関する施策は。

近年の佐久市も毎年200人前後の人口減です。ただ、佐久市は、災害リスクが低い、日照時間が長いなどの恵まれた自然環境に加えて、医療制度の充実、新幹線で東京まで70分余りという高速交通網の整備などのお陰で、東日本台風があった2019年を除けば毎年、150人から400人弱の流入超過です。

実際、上田駅、佐久平駅、軽井沢駅で発行されている新幹線定期券の発行数は、佐久平駅が一番です。当初一日32本だった停車本数が、現在は51本。市が移住応援策の一つとして、年間30万円を3年間、通勤手当補助もしています。

その一方で、私たちは、赤ちゃんを望む女性の願いを最大限、応援しようと、不妊治療、不育治療への補助である「コウノトリ支援事業」に力を入れています。

制限を設ける自治体もありますが、佐久市では所得制限なし、年齢制限なし、回数制限なし、さらに指定医療機関の制限なし、と最大限の支援をしています。申請者の数と出産組数が年を追って徐々に増え、令和2年では150組の申請で、76組が出産。この中には43歳以上の出産も3組あって、嬉(うれ)しい限りです。

佐久市の卓越性を伸ばし、「選ばれる佐久市」となるためにどのような施策を進めていますか。

生活する人にとっての最大のサービスは、「安心」の提供です。安心して暮らし、働き、子育てができる環境です。さらに、若い世代に歓迎されるためには、利便性、快適性が必要です。

そのため、佐久市では、吸引力指数でダントツ長野県ナンバーワンを目指しています。この数字が大きいほど、地元滞留率ならびに他市町村からの流入人口の割合が高いことを示しています。

平成30年の佐久市の吸引力係数は200・7で長野県内1位ですが、さらにこの数字を伸ばしていきたい。

新幹線佐久平駅の新設を受けて、周辺の田んぼ60ヘクタールの土地区画整理事業を行い、99%の土地利用率、固定資産税は新幹線開通前の平成8年度と比較し、令和2年度は103倍にまでなり、地方都市では最も新幹線効果のあった駅と言われています。

現在は佐久平駅南地区の開発中です。ここには道路幅員(ふくいん)20メートル、片側6・5メートルの歩道を設けて、長く桜を鑑賞してもらうため植栽体には8種類の桜の木を植え、ゆとりある居心地の良い空間を形成していきます。

実は、佐久平駅周辺は近年、高度成長期以上の人口増となり、平成27年に県内では21年ぶりに、新しい小学校を建設。また、増える転入者向けに、かつて商業地域であった野沢、中込地域を住宅地として再整備しています。

高齢化社会を迎えて、移動交通網の整備もまた大きな課題です。

10万の人口を抱える佐久市は、地域公共交通に年間約2億円を投じてきましたが、市民の満足度はなかなか上がりませんでした。利用者からは「もっと本数がないと不便」「遠回りはしないでほしい」と言われ、非利用者さんからは、「乗客のいないバスを走らせるなんて、ナンセンス」と苦情を言われます。

議論の末、令和3年9月末、これを廃止。代わりに、10月4日から実証運行としてデマンド交通をスタート。市内全域を走らせたのは佐久市が全国で初です。具体的には、約420平方キロメートルの佐久市を11エリアで分割し、9人乗りの乗り合いタクシー14台が稼働しています。各エリア内は大人200円で移動でき、最大600円でどこにでも行けるようにしました。さらに、75歳以上、免許返納者、障害者、妊婦、傷病者の方は、自宅前まで送迎できるサービスを提供。

円滑な予約や乗り降りができるように会員登録制を導入していますが、2月末現在、2179人が登録。2月までの5カ月で1万4817人の市民が利用しています。トヨタ自動車のサポートを受け、利用者の予約内容や乗り合い状況に応じた最適な経路を、AI配車システムが設定し、スムーズな運行となっています。おかげで評判も上々です。公共交通の大改革を通じて、佐久市のどこに住んでいても移動に心配がない、交通弱者をつくらない環境整備が、市民の暮らしやすさに直結します。

安全・安心で住みやすい環境の提供が市民の幸福につながる。行政は、常にその最前線で挑戦し続けていく覚悟です。


【メモ】ツイッターで早朝の佐久市の光景や、市の方針などを小まめに発信。「時々ダイレクトメッセージでお叱りを頂きます」と語るが、施策の手応えを感じているためか表情は明るい。笑顔を忘れず、元気な佐久市を育ててもらいたい。

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