「小学校における教科担任制の導入と効果的な運用」と題した授業公開・説明会がこのほど、東京都江戸川区にある第四葛西小学校(永浜幹朗校長、学級数22、児童数742人の大規模校、教員36人、職員4人)で行われた。同校は全国に先駆けて教科担任制を3年生から始めている。現場の教師が実践、課題を語り、明海大学客員教授の剱持勉氏が今後の在り方について講演した。(太田和宏)
複数の教員で児童の理解に努める
“チーム学年”で問題に対応
文部科学省中央教育審議会は2021年1月に小学校5、6年に「教科担任制」を導入するよう骨子案をまとめた。次期学習指導要領の中で小学校教育に関する目玉になるとみられている。「教科担任制」の狙いは「教員の指導力向上・児童の学力向上」「複数教員の関与による児童の多面的な理解」「中1ギャップの解消」「授業準備の効率化による働き方改革」を挙げている。実施においては学校の規模、教員の質・力量に応じて各校にできる形式を模索する必要がある。
教科の選択
各担当教員の「総授業時数」「授業準備回数」の差が出ないよう教科を選択している。6年生4学級の場合、社会420時間、授業準備回数105回、理科420時間、授業準備回数1057回、算数350時間、授業準備回数175回となっている。学級担任が国語、体育、道徳、総合、学活を担当、専科として音楽、図工、家庭科、外国語を担当している。
教員生活6年目、5年生担任理科担当の君和田実咲教諭は「学級担任制であれば、同じ授業は数年先にしか実践できないが、教科担任になって、同じ授業を同年度に複数回実施できる。失敗したかな、授業構成が良くなかったなど、その年度のうちに修正実践できる。学級担任だと教科全部の準備が必要だが、ピンポイントで濃密な授業準備ができ、児童の授業理解も深まっている」と利点を挙げる。
担当教科の決定
同校の各学年の教員構成におけるベテラン・中堅・若手の構成はさまざまで、一概に決定することは難しい。「公務分掌の軽重」「授業準備の軽重」「教員の経験」などを調査・確認。理科の実験、社会科の見学、研究授業の準備など繁忙期の確認を含めて学年主任を中心に話し合い、最適なバランスを考慮、教務主任と研究主任が取りまとめ、校長が決定している。
教員生活5年目、3学年主任社会担当の高橋巧実教諭は「若手教員が主流の3学年で国語、社会、理科を教科担任制にしている。上手なノートの作り方を目指している。授業構成は同学年の教科担任と相談しながら決めている。複数の教員で、いろんな視点で児童を見守っている。相談に乗ったり、中学の教科担任制とのギャップを埋められる」と高評価だ。
時間割作成
2時間続きの「図工」「家庭科」「理科」の時間を設けた。音/社、図/国など週ごとに教科が変わる時間枠を設置。教科担当教員の学年集会を実施できるよう学年担任のみが授業を行う枠を設定している。
教員生活13年目、研究主任・4学年主任理科担当の中本健太郎教諭は「児童の学力向上は教員の質・力量の向上が不可欠。充実した授業の準備には教科担任制が欠かせないという。個々の児童の名前や気質を理解するのが早くなった。学級担任制だと学級内の問題を1人の教員が抱え込むことが多かったが、4人の学級担任と教科担任が“チーム学年”として対応できるようになった」と教科担任制の利点を語る。
16年目のベテラン、教務主任6学年主任社会担当の鈴木茂之教諭は「時間割、教科担当など、独りで問題を抱え込まず、また、1人に責任を押し付けることのないよう気を付けている」と教務主任としての心構えを披露した。
自由記述による3~6年生446人への教科担任制アンケートでは「授業が楽しい」「いろんな説明があって分かりやすい」と94%の児童が肯定的な反応を示している。「学級担任以外の先生から褒められた」とか「いろんな先生の目で見てもらっている」と複数教諭の“チーム学年”の利点を指摘する児童もいる。
剱持教授は「教科担任制は児童の学力向上を目指している。実施には教員の質・力量の向上(かなりの努力が必要)と人員増加が不可欠。文部科学省は概算要求で2000人増やすよう要求したが、定数950人増にとどまった。財務省から中学校教諭を活用すれば可能だと言う意見も出た。小学校と中学校の教員のシステムの違いを理解していない発言だ。クラスの持ち上がり、卒業を見届けるなど小学校教員の矜持(きょうじ)を理解していない」と説明会に参加した教職関係者に訴え掛けた。