日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業、非製造業とも景況感を示す業況判断指数が7四半期ぶりに悪化に転じた。
新型コロナウイルス禍から持ち直しを続けてきた国内経済は、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、原油など原材料価格の一段の高騰により先行き不透明感が強まっており、日本経済全体への影響が懸念される。
円安で輸入コスト上昇
まさに新型コロナ変異株「オミクロン株」の感染拡大によるコロナ禍と「プーチン禍」とも言うべきウクライナ侵攻に伴う原材料価格の一段高というダブルパンチである。
大企業の景況感は製造業、非製造業とも、新型コロナ発生直後の大きな落ち込みから7四半期(1年9カ月)の間、曲がりなりにも改善を続けてきた。しかし、この二つの禍が景況改善の流れをせき止め、砕こうとしている。
3月の業況判断指数は大企業製造業、非製造業ばかりでなく、中小企業の製造業、非製造業でも軒並み悪化。3カ月後の先行きでも同様に悪化を見込んでいるのである。
警戒を要するのは、最近の円安の進行である。
今回の短観では1年後の物価見通しが全規模全産業で前年比1・8%(前回1・1%)、販売価格の見通しは2・1%(同1・2%)とそれぞれ大幅に上昇し、ともにこれまでで最も高い伸び率になったが、2022年度の想定為替レート(全規模全産業)は1㌦=111円93銭と、現状で122円台となった最近の円安の進行を十分には反映していない。
大企業は仕入れ価格と販売価格がいずれも上昇傾向にあると受け止め、消費者への価格転嫁(消費者にとっては生活必需品などの値上げ)がさらに進みそうだが、最近の円安がさらに進行した場合でも価格転嫁ができるのかどうか。
価格転嫁ができなければ、円安による輸入コストの上昇を補い切れず企業収益を圧迫。逆に転嫁できたとしても、さらなる値上げで家計の負担が増し、消費にマイナスの影響が出れば、景気そのものを悪化させる恐れもある。
円安は利上げに舵(かじ)を切った米国との金利差拡大が背景にあり、米国がさらなる利上げを想定している状況にあっては、円安圧力は日増しに強まる状況にあると言える。長期金利の上昇を必死に食い止めようとする日銀の指し値オペは、市場では円安容認とも受け取れ、さらなる円安への誘因となろう。
原材料高長期化を懸念
円安はもちろん、輸出企業の収益にプラスに作用するが、前述の通り、原材料価格を一段と押し上げ、コスト上昇のデメリットも小さくない。
非製造業では、3月22日からのまん延防止等重点措置の全面解除に回復を期待する声が上がっているが、コロナ感染が下げ止まってリバウンドの兆候を見せている。ウクライナ危機も先が見通せず、原材料高のさらなる長期化も懸念される。スタグフレーション(物価高の景気後退)入りの恐れもあり、国内経済は先行き予断を許さない。