米国防総省が国防政策全般の指針となる「国家防衛戦略(NDS)」をまとめ、議会に提出した。NDSの策定はバイデン政権初となる。
脅威が高まる中国を「最大の戦略的競合国」と位置付けて対応を優先し、続いてウクライナを侵略したロシアに対処する姿勢を明らかにした。
中国が「最大の競合国」
NDSは米大統領が策定する外交・安全保障の指針「国家安全保障戦略」に基づいて定めるもので、2018年にトランプ前政権が公表して以来。同省は今回初めて「核態勢の見直し(NPR)」と「ミサイル防衛見直し(MDR)」をNDSに統合して作成した。
バイデン政権は昨年3月公表の国家安保戦略の暫定指針で、中国を「唯一の競争相手」に位置付けた。NDSでは、ウクライナに侵攻したロシアを「深刻な脅威」と位置付ける一方、中国を「最大の戦略的競合国」と明記した。
中国の脅威からの米本土防衛を最優先事項とし、同盟国・有志国への戦略的攻撃を抑止することを打ち出した。インド太平洋における中国に対峙(たいじ)する能力の向上を優先し、次にウクライナに侵攻したロシアへの対処を掲げた。
中国の習近平国家主席は台湾統一を「歴史的任務」と位置付けている。台湾侵攻などへの警戒を怠ることはできない。米国が中国の覇権主義的な動きに対抗することは、地域の安定のために不可欠である。
ただ、ロシアによるウクライナ侵略への対処もおろそかにはできない。これまでも米国はウクライナに無人機や地対空ミサイル、対戦車ミサイルなどを供与してきたが、最大限の支援を行う必要がある。
NDSでは、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国や友好国と協力し、ロシアに対してさらなる侵略を防ぐための強固な抑止を敷くとしている。ウクライナ侵略を受け、ドイツのショルツ首相は毎年の国防費を、NATOの目標「国内総生産(GDP)比2%」を超える規模に増やす方針を示した。
伝統的に中立や非同盟政策を取ってきたスウェーデンとフィンランドも、各国と足並みをそろえてウクライナへの武器供与に踏み切った。両国ではNATO加盟の機運が急速に高まっている。米国と欧州が一体となってロシアの脅威の高まりに対処すべきだ。
一方、バイデン政権は核抑止力の維持を「最優先事項」と宣言。米国の「核の傘」に頼る同盟国の懸念払拭(ふっしょく)を図ったと言える。バイデン大統領は核の先制不使用宣言を検討していたとされるが、日本や欧州の同盟国はこぞって反対していた。
日本も自主防衛力向上を
日本では安倍晋三元首相が、米国の核兵器受け入れ国が使用に際して意思決定に加わるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)についての議論を呼び掛けた。
自民党の保守系議員は防衛費をGDP比2%以上を念頭に拡充するよう求めている。中露両国や北朝鮮の脅威が高まる中、自主防衛力の向上は喫緊の課題である。