沖縄県のMICE計画、政府と対立し大幅縮小

2012年以来、大型MICE(企業会議、研修旅行、国際会議、見本市の総称)事業を模索している沖縄県はこのほど、一括交付金に頼らず規模を当初計画の3分の1に縮小して事業を行うことを決めた。政府は県の需要予測を疑問視して一括交付金の交付を認めなかったため、計画変更を余儀なくされた。観光発展の切り札とすべく県が長期的に取り組んでいるプロジェクトだが、予算計画や場所の選定、事業内容で迷走し、後退した印象だ。(沖縄支局・豊田 剛)


玉城県政3年半で経済後退、自民「革新不況」と追及

雑草が生い茂っているMICE建設予定地=沖縄県与那原町・西原町(豊田剛撮影)
雑草が生い茂っているMICE建設予定地=沖縄県与那原町・西原町(豊田剛撮影)

「県知事に就任してから3年余りが経過した。この間、祖先への敬い、自然への畏敬の念、他者の痛みに寄り添うチムグクル(肝心)を大切にするとともに、『自立』『共生』『多様性』の理念の下、包摂性と寛容性に基づく政策を推進してきた」

玉城知事は2月15日、2月県議会の所信表明でこう述べた。これについて、「政府と対立し、SDGsを追求した結果がMICEの大幅縮小だとしたら寂しい限りだ」とある建設会社の社長は嘆いた。

MICEの必要性は、最大収容約5000人の沖縄コンベンションセンター(宜野湾市)が大型イベントの受け皿として手狭となっていたことから浮上。仲井眞弘多知事(当時)が2012年、構想づくりに着手した。仲井眞県政はアジア圏の需要を見据え、MICE機能を有した大型統合リゾート(IR)の可能性を模索。カジノを含めたIRで成功したシンガポールをモデルとし、調査していた。

ところが翁長雄志氏は14年、カジノ誘致反対を公約に掲げて県知事に当選した。エンターテインメント施設なきMICE建設を推進した。その建設先としては、沖縄本島の経済発展の均衡化を図る目的で、東海岸の与那原町と西原町にまたがる埋立地、マリンタウン地区が選ばれた。

これが裏目に出た。有力視されていた那覇空港近くの西海岸地域ではなくなり、不便さを感じる人々は県内外に少なからずいた。MICE総事業費の8割を、政府による一括交付金で補う予定だったが、政府は採算性や需要予測で疑問を呈し、県はそれを覆す材料を提示できずにいた。

那覇空港第2滑走路や宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋など大型プロジェクトを次々と実現させた仲井眞弘多知事に比べ、翁長氏と玉城氏と続く「オール沖縄」になって、何一つ目立つ経済振興策が打ち出せないでいる。その上、政府による交付金は減少の一途をたどっている。仲井眞県政で最大3501億円になった沖縄関連予算は、安倍晋三元首相の方針により21年度まで10年間は3000億円台が維持されたが、来年度は約2684億円で閣議決定された。県議会の自民党会派は「革新不況」、すなわち、県政が不況をもたらしたとして知事を厳しく追及している。

コロナ禍も逆風、当初計画の3分の1規模に縮小へ

沖縄県のMICE計画、政府と対立し大幅縮小
沖縄県が配布したマリンタウンMICE形成事業基本計画(案)

大きな歳出予算が組めない上、税収も新型コロナウイルス感染の影響で大きく減っている。中でも減額が目立っているのは建築関係だ。歳出総額に占める普通建設事業費は前年度から216億円減の1137億円に。MICE計画の大幅な規模縮小を決定的にした。
玉城知事は2月18日の記者会見で、MICE規模を従来計画の3分の1の約1万平方㍍に縮小する計画を発表した。20年時点で一括交付金の事業として建設できないことが確定すると、民間事業者が整備したのち県が施設を購入する官民連携(PFI)の手法で事業化する方針を決定した。

コロナ禍でMICEを取り巻く環境は厳しい。20年、県内でのMICEの開催件数は前年比70%減の490件だった。大規模な会議では、現地とオンラインで結んだものが多数を占めた。コロナ禍が長期化する中で、コロナ前のような賑(にぎ)わいをMICEに期待できないという見方もある。

余った3分の2の土地をどうするかも大きな課題だ。県当局は「需要の増加を見据えて確保する」と話すが、どれだけの間塩漬けにするのか、ビジョンが見えない。MICE建設予定地である西原町と与那原町の議員らは、「まちづくり計画を進めようにも、青写真が見えない限り、手の打ちようがない」と苦言を呈する。

建設予定地の飲食店店主は、「規模が縮小したことで経済的なメリットも期待できない。そもそも本当に実現するのか」と懐疑的だ。夢のない計画に、「既存のコンベンション施設、沖縄コンベンションセンターを拡張した方がいいのではという議論も出ている」(伊集悟与那原町議)という。

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