静かな感動を与える伸び伸び発想の「書」

金沢市の金沢ふるさと偉人館で「名前一文字展」

石川県金沢市の金沢ふるさと偉人館で、恒例の「名前一文字展」が始まった。子供たちが自分の名前の中から大好きな一文字を選び、半紙に墨や絵の具で自由に描く作品展だ。手本がない分、子供たちの性格がよく表れており、保護者をはじめ、来館者に静かな感動を与えている。(日下一彦)


今年で17回目、子供たちの感性溢れる作品が並ぶ


「名前一文字展」は平成16年に始まり、今年で第17回を数える。毎年応募数が多いので、展示は2回に分けて開かれ、前期は市内外の年長児、小学2、4、6年生の書2267点が展示されている(2月5~27日)。名前や苗字を通して、家族のつながりを深めるきっかけにしてほしいと始まった。

静かな感動を与える伸び伸び発想の「書」
今年で第17回を数える「名前一文字展」で、津島館長から表彰状と記念品を授与される受賞者=金沢市の金沢ふるさと偉人館

作品を見ていくと、子供たちの感性あふれる文字に出合える。保育園児にとって名前の漢字はなかなか大変なようで、特に画数の多い文字はなおさらだ。例えば「凛」のある児童。「偏(へん)と旁(つくり)」のバランスがたどたどしい。全体の形にこだわることなく、魚が体をくねらせて泳ぐように描いている。彼の目にはこんなふうに映っているのかと感じたままに描いている。「偏」と「旁」のバランスも思いのままで、形式にとらわれない。発想が伸び伸びとしている。

興味深いのは、小学生に比べて幼稚園児、保育園児の方が柔軟な発想で描いているということだ。小学生になると、こんな自由な発想の作品にはお目にかかれない。自我が芽生えて、通常とは懸け離れた「異質な」作品は描けない、恥ずかしいとの思いが生じるのだろうか。

同展の生みの親で教育者でもある松田章一さんは、自戒の念を込めながら、「園児らの自由な発想で描く姿を見ていると、教育というのは、どこか子供たちの秘めた力を削(そ)いでいっているのかなという感じもします」と語っていたのが印象的だった。

左右が反転した作品、書家顔負けの変形文字も

その一方で、小学生になると飛躍した発想も現れるようだ。苗字に「山」のある子は高くそびえる山頂を描いたり、その隣には「島」の苗字の子は、離れ島に小舟で渡り、カモメを描いて海の雰囲気を出している。一文字を通して、構想する世界が広がっていることが分かる。「竹」の苗字の児童は、文字を竹に見立てて10個の節を付けて成長する自身の姿を重ね合わせているよう。工夫した様子が分かって興味深い。

静かな感動を与える伸び伸び発想の「書」
石川県金沢市で開催されている「名前一文字展」に展示されている子供たちの作品。右上は「竹」を描いた児童の作品=金沢市の金沢ふるさと偉人館

「これは!」と思わずうならせるような珍字にも出合えた。4年生の作品で、苗字の「黒」が左右逆になっている。書き順を変えて描いたのか、それとも鏡を見ながらスケッチしたのか、発想が面白い。同じ小学校で似たような出品があったので、担任の先生のアドバイスかもしれない。

小学校高学年ともなると、しっかりした楷書(かいしょ)では飽き足らず、わざとかすれた技法で描いて味わいを出したり、書家顔負けの躍るような変形文字を紙面いっぱいに描いたりと、その豊かな感性には驚かされる。

「名前は生涯付き合っていく文字です。姓を書いた子は、何でこんな字を書くのかなと、自分の家の歴史を考えるきっかけになります。名前を書いた子は、そこに託された父母の願いに触れたかもしれません。中には、自分の未来を考えた子もいたでしょう。心の中でも、親子の会話が生まれてくるのではないでしょうか」(松田さん)

前期が2月27日(日)まで、後期は3月12日(土)~4月3日(日)までで「年中以下、小学1・3・5年生」の作品が展示される。入場無料。入館する際はアルコール消毒と検温が必要だ。問い合わせ=電話076(220)2474。

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