任期満了に伴う名護市長選が1月23日に行われ、自民、公明推薦の現職、渡具知武豊氏が再選を果たした。同市辺野古では米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の代替施設の建設に必要な埋め立て工事が進んでいるが、市長選の結果は建設に向けて弾みとなりそうだ。(沖縄支局・豊田 剛)
岸本氏との一騎打ち制す、南城市長には古謝氏が返り咲き

選挙戦は政権与党の自公が支援し、2期目を目指す渡具知氏と、玉城デニー知事を支援する「オール沖縄」陣営から立候補した元市議の岸本洋平氏との一騎打ちとなった。沖縄の「選挙イヤー」の初戦と位置付けられた今回の重要選挙は自公に軍配が上がり、秋の知事選に向けて弾みをつけた。
開票作業が行われた23日午後10時半ごろ、NHKの当確が出たが、ほぼ同時刻に「南城市長に古謝景春氏当確」の速報が入った。同日行われた南城市長選では、4年前にわずか65票差で苦杯をなめた自公推薦の古謝氏が市長に返り咲いたのだ。現職相手に終始、苦戦が伝えられていただけに、オール沖縄から市政を取り戻したインパクトは大きい。

本来、この日に行われる予定だった八重瀬町長選は自公系の新垣安弘町長が無投票で再選を決めている。これを含めれば、選挙イヤーの序盤戦は自民の3戦3勝という形だ。
渡具知氏の選挙事務所には、開票を見守る茂木敏充自民党幹事長の姿がモニターで映し出されていた。夜10時すぎ、渡具知氏の当確が出て、万歳三唱をした後、茂木氏は「国の立場からも全力で(名護振興を)バックアップしたい」と力強く述べた。
市民は生活重視の選択、子育て無償3点セットが奏功
今回の選挙戦で最大の争点となったのは子育て・福祉など市民サービスの向上だった。
子育て無償化には年間7億円の予算が必要になる。渡具知氏は選挙戦で、「(自身が実現した)無償化3点セット(保育料、中学までの給食費、高校卒業までの医療費)は財源の大きさから、どの市町村でもできなかった事業」だと胸を張った。辺野古移設の見返りとして国から与えられる米軍再編交付金を活用したからこその実績だが、これが市民に受け入れられた。
投票日は終日、雨模様だった。それに加え、コロナ禍が拡大した影響もあり、投票率は前回を8ポイント下回る68・32%と過去最低だった。
前回2018年は与野党幹部や知名度のある国会議員が先を争うように名護市入りした。中でも小泉進次郎衆院議員は2回も名護に入り、大きなうねりをつくった。
今回、“静かな選挙”となったことを歓迎する声は渡具知陣営から出ていた。「県外から多くの議員らが駆け付ければ、辺野古移設問題が再燃するし、県外からの影響に反発する市民も一定数いる」と陣営幹部は指摘した。
岸本氏、辺野古移設阻止や弔い合戦演出も効果なく
一方の岸本氏は、交付金に頼らず、市有地売却や行政の無駄を省くことで無償3点セットの財源を確保すると主張したが、「財源の根拠がコロコロ変わる」(渡具知氏)との批判に反論できなかった。
さらに、辺野古移設阻止の訴えが有権者に響かないことが分かると、志半ばで亡くなった父親・岸本建男元市長や任期途中で命を落とした翁長雄志元知事の「遺志」を訴える感情的な選挙戦を展開した。翁長氏の妻、樹子氏は連日街頭に立って「辺野古新基地を造らせない遺志をなんとしても引き継がなければ」と訴えたが、こうした「弔い合戦」にも有権者は冷ややかだった。
名護と南城で勝利した自民、今後の選挙の追い風に

名護と南城を取ったことで、自民県連会長の中川京貴会長は「今後の市長選、参院選、知事選に向けて追い風になる」と力強く語った。一方で、「参院選、県知事選となると、他人事のように考える人もいる。簡単にはいかない」と、ある自民党県連の幹部は気持ちをすぐに引き締めた。
自民は夏の参院選(沖縄選挙区)と秋の県知事選ともにオール沖縄の現職に挑む。昨年内の決定を目指していた参院選の立候補予定者は、年が明けて1カ月が過ぎた現在もまだ決まっていない。自民党県連は県知事選候補の選考委員会も発足させていない。
次の選挙は2月27日に投開票される石垣市長選だ。自民は中山義隆市長の4選を確実なものとしたいが、中山市長を1期目から支えてきた保守系市議との一騎打ちとなる公算が大きく、厳しい選挙になりそうだ。