沖縄「選挙イヤー」皮切り、名護市長選23日投開票
2022年の沖縄は県知事選、参院選、那覇や宜野湾などの市長選、統一地方選など選挙が目白押し。そのキックオフとなるのが名護市長選だ。23日に投開票される。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先の辺野古を抱える自治体の判断は、今後の政局に大きな影響を与えそうだ。(沖縄支局・豊田 剛)
現職の渡具知武豊氏、子育て無償化3点で実績

名護市長選は、新人で元市議の岸本洋平氏(49)=共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦=と現職の渡具知武豊氏(60)=自民、公明推薦=が出馬した。
渡具知氏は4年前の就任後、すぐさま米軍基地負担に伴う再編交付金を活用し、市民サービスに還元した。代表的なものが、「子育て無償化3点セット」だ。すなわち、高校3年生までの子供の医療費、給食費、保育料の無償化だ。年間7億1000円の予算を投じて達成した。
無料のコミュニティーバスも走るようになった。これも再編交付金を活用したプロジェクトで、3路線からなり、商業施設や観光施設、大学、住宅地を網羅している。高齢者のタクシー利用料金も無料にした。
東洋経済社が2020年に公開した「住みよさランキング」では、沖縄県1位となった。子供の医療費助成など市民サービスがしっかりしていて、子育てしやすい環境と評価された。
新人で元市議の岸本洋平氏、父の遺志を継ぎ移設阻止へ

「交付金に頼らずに、行政の無駄を省いて子育て支援の無料化を実現する」。こう訴えるのは岸本氏だ。財源面での実現性は疑問視される中、辺野古移設の話題になるとがぜん、語気が強まる。
名護市は、1996年に日米両政府が在沖米軍再編縮小に合意して以来、四半世紀にわたって辺野古移設が争点になっている。今回は、本格的な埋め立て工事が始まってから、初の選挙となる。
日米合意後、初めて行われた名護市長選では、岸本氏の父親建男氏が、自民推薦で辺野古移設を条件付き容認の立場で出馬し、当選した。
16日の出陣式では「亡き父の遺志を胸に取り組む。決して新基地は認めない」と宣言した。建男氏は、名護市長だった1999年に移設受け入れを表明。しかし、15年間の使用期限などの条件が守られず、最後は反対に転じた経緯がある。2006年、体調不良で3期目の出馬を断念し、任期満了の翌月に死去した。
また、故翁長雄志前知事の樹子夫人が岸本陣営に入り、精力的に活動している。出陣式では「(辺野古移設阻止のため)翁長(前知事)が命懸けで戦った思いがよみがえってきた」と市民の感情に訴えた。渡具知陣営の幹部は岸本建男氏と翁長氏の2人の弔い合戦の要素が浮上していることを警戒する。
渡具知氏は移設への態度示さず、名護市民に基地問題疲れ
辺野古移設を推進する政府の支援を受ける渡具知氏は、前回に続いて移設についての態度を明確にしていない。昨年12月11日の政策発表会見では、「国と県が係争中である以上はこれを見守る以外にない」と強調。「名護市の抱える課題は基地問題だけではない。政府と対立してばかりいては駄目だ」と訴えた。
政策協定に辺野古移設が含まれなかったことについて、公明党沖縄県本部の金城勉代表は、「基地問題は国政レベルで扱う問題であり、政策協定に含める理由はない」と述べた。
昨年の10月の衆院選以来、基地問題は争点になりにくい情勢が続いていた。玉城デニー知事を支える「オール沖縄」勢力は衆院選で、小選挙区での勝利を3選挙区から2選挙区に減らした。中でも名護市を含む3区で現職が敗北した。名護市だけを見ると、自民公認候補が得票で約1500票上回った。
埋め立て工事が着々と進む一方、辺野古移設をめぐる国との法廷闘争では県の敗北が続いており、名護市民に「基地問題疲れ」が出ていることは明らかだ。ある革新系労組幹部は、「相手が発言をぼかすせいで辺野古がなかなか争点になりにくい。もっと若さを生かしてほしい」と苦言を呈する。ところが、沖縄で拡大するコロナ禍は、岸本陣営にとって「願ってもないチャンス」(岸本選対幹部)となった。岸本氏は、新型コロナウイルス感染の第6波を招いたのは米軍と断罪し、「これ以上の負担は許されない」と訴えている。
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名護市長選挙
4年前の前回は辺野古移設問題を最大の争点に、新人で元市議の渡具知武豊氏が2期目の現職で革新陣営が支えた稲嶺進氏を破り、2期8年ぶりに保守市政を奪還した。今回は新型コロナウイルスで影響を受けた経済の立て直し、福祉政策も大きな争点になっている。名護市選挙管理委員会によると、今回の選挙人名簿登録者数は5056人(15日現在)。