「企業支配」と農政批判誘う
5日に閉幕した臨時国会では、種苗法改正がマイナーながら対決法案だった。共産党が立憲民主党と共に反対したためだが、共産党機関紙「しんぶん赤旗」(12・2)は、参院農林水産委員会で1日に同法案が可決したのに対し、「企業の支配強まる」との見出しで批判した。
日本で開発されたブランド果実・農産物など優良品種を知的財産として登録品種とし、海外流出を防ぐための改正だが、同紙は「菅義偉政権が農と食の在り方を大きく変える種苗法改正案」と記述し、まったく違う捉え方をしている。
種苗企業による種子の「支配」、新種開発に用いられるゲノム編集などアグリテックに対して「食の安全」を問い、農家の反発や消費者の不安に訴えようとしたものだ。
同法改正をめぐっては、すでに春の通常国会の時に反対を表明するタレントのサイトが炎上するなど、ネット上で賛否議論が過熱した。種苗法改正は、遺伝子組み換え品種を促進するものではないが、食の安全に不安をあおる主張は運動に訴求力をもたらすと見える。
しかし、種苗法改正をめぐっては、国の研究機関が33年かけて開発した皮ごと食べられるブドウの高級品種「シャインマスカット」の種子が持ち出され、中国や韓国で栽培され、東南アジアに輸出もされた事例などが指摘されている。
政府は農水産物輸出を今後10年間で5兆円規模にする計画だ。長年の研究開発の成果の種苗を知財権として保護し、外国で栽培されて市場に出荷される海外流出を防ぐことは、輸出に活路を求める農業ビジネスの大前提になる。
しかし同紙は、全国農協労連、国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会、農民運動全国連絡会、日本の種子(たね)を守る会、食糧と農業を守る全北海道連絡会などの反対運動を「食の安全大事」などの見出しで報じ、反対運動をアピールした。
共産党は国政選挙で立憲民主党などと野党共闘を進め、参院選では農政批判の強い東北各県、北海道などで自民党を苦戦させてきた。種苗法改正により登録品種の種子を農家が増殖するには開発者の許可が必要になるため、反発もある。
共産党と立憲民主党は次期参院選、衆院選に向けて、海外流出を防ぐことが目的の同法改正について、企業支配や食の安全に争点をすり替えて集票を図っていくだろう。