特大報道で立憲使いこなす
縦割り行政、前例主義の打破を掲げた菅義偉内閣が発足したところ、最初の野党との論戦テーマが日本学術会議とは意外だった。もっとも菅内閣ではなく共産党が叫んだからだ。同党機関紙「しんぶん赤旗」(10・1)は、「前例ない推薦者外し」「菅首相、学術会議人事に介入/推薦候補を任命せず」(1面見出し)と、突出して特大報道した。
立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授からの情報で、9月29日夕方に同会議事務局長から松宮氏ら数人の名前が任命名簿に載っていないと連絡があったと記事にしたものだ。
同紙1日付の報道後すぐに志位和夫委員長が記者会見し、同紙2日付1面に「『学問の自由』脅かす重大事態/学術会議介入/違憲・違法の任命拒否は撤回せよ/志位委員長が記者会見」(見出し)の記事と共に、1日に東京都内で開かれた日本学術会議総会について「首相が6人任命拒否」などと報じた。
委員長記者会見も素早く、共産党がかなり感情的に反応したものだ。いかに日本学術会議が同党の利権になっているか示していよう。ちなみに共産党が使う「学問の自由」とは、国や産業界と大学を切り離す戦術として学園闘争などで盛んに掲げられてきた。
朝日など左派論調の一般紙も呼応し、野党が衆参内閣委員会の閉会中審査で追及した。これは「赤旗」で仕掛け、野党共闘を標榜(ひょうぼう)する共産党が与野党対決の装いで立憲民主党を使いこなす典型に外ならない。
また同紙2日付は、任命拒否されたのは「小澤隆一東京慈恵会医科大学(憲法学)、岡田正則早稲田大学(行政法学)、松宮孝明立命館大学(刑事法学)、加藤陽子東京大学(歴史学)、芦名定道京都大学(キリスト教学)、宇野重規東京大学(政治学)の6人の教授」と載せた。ネット検索サイトでこれらの教授名をしんぶん赤旗でキーワード検索すると、同紙に頻繁に登場している。
ただ、日本学術会議は同法第1条に「内閣総理大臣の所轄」「経費は、国庫の負担」と定め、第7条に「会員は、第十七条の規定(同会議の会員候補選考、推薦)による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とある。任命に首相側の判断はあり得よう。共産党=「赤旗」の反応は、あたかも芥川賞候補とされながら選ばれなかった作家がキレて「理由を言え!」と怒鳴り込んだようなものだ。
編集委員窪田伸雄