トップ国際台湾「台湾経験」で中国統一目指す、李登輝元総統の民主改革と対中政策

「台湾経験」で中国統一目指す、李登輝元総統の民主改革と対中政策

平成国際大学の浅野和生教授が七回忌追悼講演

 7月30日は台湾の民主化を実現した李登輝元総統の七回忌だった。その李氏の足跡を学ぶ講演会(主催・日台関係研究会)が8月8日に東京都内で開かれ、平成国際大学の浅野和生教授が李氏を追悼する意味も込めて「李登輝総統の民主化改革と中台関係の構想」をテーマに講演を行った。(宮田陽一郎)

7月30日に七回忌を迎えた台湾の李登輝元総統の民主改革と対中政策について講演する平成国際大学の浅野和生教授=8月8日、東京都千代田区(宮田陽一郎撮影)
7月30日に七回忌を迎えた台湾の李登輝元総統の民主改革と対中政策について講演する平成国際大学の浅野和生教授=8月8日、東京都千代田区(宮田陽一郎撮影)

 浅野氏は李氏の民主政策や対中外交に関し、総統在任中のさまざまな演説で示された方針を説明。最初に、李氏が蒋経国総統の死去を受け、第7期総統に就任した際の1988年1月13日の演説について解説した。

 李氏は演説で「国民と共に、三民主義に基づいて中国を統一するという偉業の達成に向けて邁進(まいしん)する」と強調した。三民主義は、台湾で『国父』と呼ばれる孫文が唱え、中華民国建国の基礎となった「民族、民権、民生」のことだ。

 浅野氏は「李氏は台湾独立論者ではなく、中国統一論者として総統になった」と指摘。李氏の対中政策について「台湾経験(平和的に民主主義へ移行したプロセス)の中国全土への拡張という形で中国統一をするという建前を現職の間は変えることはなかった」と述べた。

 89年10月10日の双十節の演説で、李氏は同年6月4日に起きた中国の天安門事件に対して「このような暴虐の限りを尽くす中国共産党の行為は、貧困、無知、残忍の代名詞となっている。全ての中国人にとっての恥辱である。私たちはこれを傍観することはできない」と痛烈に批判した。

 ベルリンの壁崩壊後の90年1月1日の演説では「世界情勢を見渡せば、大陸から東欧に至るまで『政治の民主化』と『社会の発展』を求める声が天を突く勢いで高まっている」「このような時代の潮流は、中国共産党の崩壊が避けられない運命であること、そして中国の統一が歴史の必然であることを明確に示している」と主張した。

 ■一党支配を改める

 浅野氏は「李氏による民主改革は、こうした世界的な趨勢(すうせい)の中で進められた」と指摘。台湾では戦後、国民党による一党支配が続いてきたが、国民党の古い幹部も東欧の民主化や天安門事件を見て「『一党支配は継続できない』という圧力を感じ、李氏の改革を支持せざるを得なかった」と説明した。

 同年3月の総統選に勝利した李氏は、5月20日に第8期総統に就任。この時の演説では「憲政体制の改革と同様に重要なのが、政党政治の確立」「民主憲政の真の実現には、政党間の公平な競争を通じて、国家の方針を国民に問い、国民の意思によって政治が進められる仕組みが不可欠」などと力説した。浅野氏は「かつて一党支配をしていた政党の党首が、政権交代の可能性もある与野党による政治を行うと言っている。こういう人はなかなかいない」と語った。

 この演説で李氏は「もし中共当局が、世界の潮流と全ての中国人の期待を真摯(しんし)に認識し、民主政治と自由経済を推進し、台湾海峡における武力の使用を放棄し、『一つの中国』の前提の下で、われわれの国際関係の展開を妨げないのであれば……両岸の中国人の民意に基づいて、国家統一の問題を共に討議することができる」と中国に呼び掛けた。

 李政権は91年2月に国家統一綱領を策定し、同年3月に行政院で採択された。綱領は「両岸人民が民主、自由、均富を達成した時、統一の手続きに入ることができる」と規定している。これは中国における共産党の支配を暗に否定するものだった。綱領は陳水扁政権が2006年2月に「適用終了」を宣言するまで台湾の公式の対中政策だった。

 一方、初の総統直接選挙で勝利した後の1996年5月20日の第9期総統就任演説で、李氏は「中国共産党は台湾、澎湖、金門、馬祖に中華民国が存在するという事実を常に無視してきたため、両岸関係の発展は紆余曲折を経験してきた」「中華民国は主権国家である」と強調した。浅野氏は「李氏が総統の任期の間に打ち出した中台関係のメッセージは『特殊な国と国との関係』という言葉。『中国は一つ』と言いながら、実は国として二つあるということ」と説明した。

 対中関係について、李氏は99年7月のドイツ国際公共放送「ドイチェ・ヴェレ」のインタビューでも「一方が合法政府で他方が反乱団体とか、一方が中央政府で他方が地方政府といった『一つの中国』の内部関係ではない」と語っている。浅野氏は「李氏は『現状は二つの実態になっている』と言いながらも『将来に向かっては、民主的で自由な台湾の文化文明を中国に広げる』ということを話していた」と述べた。

 ■「武力統一」後退か

 浅野氏は現在の中台関係にも言及した。台湾は2021年の時点で「中国は25年には台湾への武力侵攻が可能になる」との見通しを持っていたが、7人で構成されていた中国の中央軍事委員会で現在残っているのは、習近平中央軍事委主席(国家主席)と張昇民同委副主席の2人だけで、あとの5人は失脚したと説明。このため、台湾の国防専門家から「中国による台湾武力統一は35年以降だ」という見方が出ていることも紹介した。

 その上で「習政権は平和統一路線を強めることになる。サイバー攻撃や世論戦、法律戦を繰り出してくる」と警告。今年から始まった中国の第15次5カ年計画では、中華文明の発信力向上のほか、台湾との経済協力を推進するとして「台湾企業の中国本土での定着と発展」や「多層的な両岸金融市場の構築」を支援するなどの方針が示されたことにも触れた。

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