
脅かされる経済・情報インフラ
国際通信のほとんどを担う海底ケーブルの安全性を重視する動きが高まっている。中国は情報世界においても覇権を握ろうと動きだし、台湾周辺海域においては、事故を装って故意に海底ケーブルを切断するなど、台湾の孤立化を狙う手法で揺さぶりを掛けている。こうした中、日本政府は海底ケーブルの支援を強化する方向に舵(かじ)を切った。(宮沢玲衣)
海底ケーブルは髪の毛ほどの細さの光ファイバーを何層もの保護層で包んだ構造でできており、その保護層は漁船の錨(いかり)や海洋生物による損傷を避けるため、浅い海域ほど強固で、深海ほど軽外装になる。島国である日本の国際通信の約99%が海底ケーブルを経由しており、重要な情報なども海底ケーブルを通してやりとりされている。衛星通信も重要な通信手段だが、遅延の少なさと圧倒的な伝達容量で優位性を持つことから、海底ケーブルは情報社会である現代にとって重要なインフラの一つとなった。
人工知能(AI)などのデジタル技術の発達を背景に、通信量は増加の一途をたどる。特に、東アジアから東南アジアを含む環太平洋地域で、向こう十数年にわたり海底ケーブルの敷設(ふせつ)増加が予想される。
かつての海底ケーブルは「経済的インフラ」でしかなく、日本政府はこれまで積極的に関わってこなかった。ただ、米中対立の激化により、情報の通り道を誰が支配するのか、安全保障の面からも重要な意味を持つようになった。情報の安全性が脅かされるようになった今、官民の連携が見直され、政府は敷設船の購入やケーブルの生産能力の拡充を支援する方向に舵を切った。
国家戦略で海底ケーブル網を構築する中国
中国は情報の通り道である海底ケーブルが国家の存亡を左右することにいち早く気付き、国家戦略として海底ケーブル網の構築を加速させてきた。中国企業のHMNテックは国家からの補助金を受け、新興勢力としてケーブルの敷設受注競争に参入している。
中国企業はこれまでアフリカや東南アジアの途上国のケーブル敷設を多く受注してきた。中国製機器の管理システムを通じて、中国軍が有事や諜報(ちょうほう)活動における情報を武器とすることが懸念される。
総務省の総合通信基盤局の昨年11月の資料によると、海底ケーブルは深海の環境に耐える強度を有するものの、世界で毎年100~200件程度の障害が発生。その原因としては、漁業活動等を含めた人為的な活動によるものが6割強を占めており、日本周辺の東シナ海や南シナ海地域で損傷事案が集中しているという。
台湾沖で次々とケーブルが切断される
中国は台湾有事の際に通信環境の孤立を狙っており、台湾は海底ケーブルの切断・破壊に相次いでさらされている。昨年1月、台湾北部海域で中国人船員7人が乗ったカメルーン船籍の中国企業が保有する貨物船が海底ケーブルを切断した。2月には中国人船員8人が乗ったトーゴ船籍の貨物船が錨を下ろしたまま「Z」の字を描くように航行し、台湾本島と澎湖諸島を結ぶ海底ケーブルを損壊させた。台湾国防安全研究院の報告書によると、2023年にも台湾本島と馬祖を結ぶ2本の海底ケーブルが中国共産党の漁船と正体不明の船舶によって、それぞれ切断・破損された。
台湾は昨年1月の海底ケーブル切断について、「境外敵対勢力」による脅威と認定したが、中国の台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室(国台弁)はこれを「毎年、世界中で何百件も発生する事故」だと述べ、関与を否定した。
国際海底ケーブルの損壊事案の増加が見込まれる中、今後は物理的な防御策の強化に加え、サイバー空間での監視体制の構築などが急がれる。
総合電機・IT大手のNECが海底ケーブルのサプライヤーで世界3番目のシェアを持つことは日本の外交・安全保障における強みだ。情報空間の安全性を守るため、世界に果たす日本の役割は大きい。





