トップ国際台湾【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (12)台湾、中国浸透工作を厳戒

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (12)台湾、中国浸透工作を厳戒

3月13日、中国の台湾軍へのスパイ工作に対抗するため台湾総統府で記者会見し、軍事裁判の復活を表明する頼清徳総統(総統府提供・時事)

 台湾は、中国の介入を強く警戒している。特に世論操作で社会が中国の思惑通りに動けば、「戦わずして勝つ」孫子の兵法の通りになりかねない強い危機感を抱いている。

 2019年1月、中国の習近平国家主席が「台湾統一」を「中国の夢」の核心に位置付け、「一国二制度」で統治する構想を打ち出した。蔡英文総統はこれを断固拒否すると表明。両岸に緊張が走り、中国による政治や選挙への介入、資金提供、偽情報の拡散など、台湾への影響工作の懸念が一気に高まった。

 蔡政権は「反浸透法」を法制化し、20年1月に施行された。同法は敵対勢力の指示や委託、資金援助に基づき台湾の個人や団体が選挙で特定の候補を支援することや、政治献金の提供、軍事・外交・対中事務に関するロビー活動を禁止する。これにより、中国が台湾の協力者を通じて社会に浸透することを抑止することが可能になった。

 反浸透法制定を巡っては、与党・民進党が政策の必要性を訴える一方、親中的な最大野党・国民党の議員らは自由を侵害するとして強く反対。現在、立法院長(国会議長)を務める韓国瑜氏は当時「政府は反浸透法を使って、台湾人民の喉に爆弾をくくり付けた。遠隔操作機は民進党の手中にある」と批判していた。

 国民党寄りのメディアも同調し、まるで社会を二分する政策であるかのように報じたが、両岸政策協会が19年12月末に発表した世論調査によると、反浸透法に49・2%の人々が賛成。反対は27・7%だった。

 しかし、現在も国民党は反浸透法に対し否定的だ。馬英九元総統は昨年4月に習氏と面会。台湾に戻った後、「反浸透法は中台交流を妨げている」と批判し、改正すべきだと主張している。

 現在、台湾の立法院は、5年前と違い野党の議員数が与党を上回っている。民進党支持者らが主導した国民党議員のリコール運動も失敗し、議会は28年末まで野党有利の情勢は継続するため、任期中に同法が改正される可能性は十分に考えられる。

台北地裁は24年7月23日、反浸透法に違反した容疑で逮捕、起訴された李尚典、郭佩金の両被告に有罪判決を下した。同法が有罪判決に適用された初めてのケースだ。李被告は、民間団体「海峡両岸少数民族交流協会」の幹部で郭被告はその妻。夫婦は中国側から指示され、23年に台湾少数民族で国民党籍の鄭天財立法委員(国会議員)の選挙状況や票集め、選挙戦略を練るなどの工作を行っていた。

 台湾には反浸透法のほか、1987年に成立し、2022年に大幅改正された国家安全法がある。スパイ行為や機密漏洩(ろうえい)、半導体といった先端産業技術流出などを取り締まるものだ。

 検察当局は18日、中国のために軍事機密を収集したとして香港人1人を含む7人を国家安全法違反などの罪で起訴した。台湾高等検察署によると、台湾人の6人は現役・退役軍人。中国籍の丁小琥被告は、ビジネスや観光の名目で台湾を複数回訪問していた。

 検察側は、台湾を守る責務のある現役・退役軍人が中国に軍事機密を漏らしたことは台湾の安全を強く脅かすものとして、「法律で最も厳しい制裁を受けるべき」との認識を示した。

 今年1月、台湾の情報機関・国家安全局が発表した報告書によると、24年に中国のためのスパイ行為で64人が起訴され、このうち現役軍人が28人、退役軍人が15人いた。頼清徳総統は3月、中国の軍へのスパイ工作に対抗するため軍事裁判を復活させる方針を明らかにした。

 台湾は中国に虎視眈々(たんたん)と狙われながらも、自由と民主主義を守ろうと必死だ。民進党は、中国からの超限戦介入に備え厳戒態勢を整えようとしている。一方で、中国とは言語や文化の関わりが深いだけに、経済や宗教的な面から関係を持つ人々や議員から批判もある。

(宮沢玲衣)

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