
中国の武力侵攻や浸透工作が題材の台湾ドラマ「零日攻撃 ゼロ・デー・アタック」が注目を集めている。今月から台湾や日本で配信されており、「台湾有事」を真正面から扱った作品としては台湾初だ。実際に起きた事例も含まれ、海外に対しても、台湾で進む浸透工作への危機感を共有できる作品となっている。中国の浸透工作は日本でも行われており、台湾から学ぶべきことは多い。(宮沢玲衣)
タイトルになっている「ゼロ・デー・アタック」は、IT用語で、対策が講じられる前のソフトウエアやシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を利用して行われるサイバー攻撃のことを指す。作品では台湾有事がもたらす社会的混乱を一般家庭、軍関係者、メディア、裏組織などそれぞれ異なった10の視点から描いた。
中国に対する異なった見方から起きる家庭内不和やインフルエンサーを使った浸透工作など、実際に起きている出来事を題材としており、フィクションではあるものの、日増しに高まる台湾有事への懸念をリアルに描いている。
プロデューサー兼シナリオ統括の鄭(てい)心媚(しんぴ)氏は「戦争という極限状態は、個人の本当の価値観と人間性を強制的に引き出す」と地元メディアに語っている。
第1話では総統から見た台湾有事の様子が描かれている。次期総統に政権移行する政治的停滞の起きやすいタイミングを狙って中国軍が武力攻撃に至らないグレーゾーン事態を引き起こす。
今月上旬から先行放送している台湾では、「リアリティーがあり過ぎ」「立場に関係なく、台湾がどの方向に向かってほしいか考えるべきだ」などの感想が見られたが、批判も少なくない。
制作には約2億3000万台湾㌦(約11億円)が投じられており、40%を超える額を台湾当局が補助した。台湾でも文化振興のための公的支援は一般的だが、補助金の公平性に関しては議論となっている。最大野党の国民党は「民主進歩党政権の洗脳ドラマ」などと猛反発している。
台湾や香港の俳優のほか、日本からは高橋一生さんと水川あさみさんも出演している。台湾の複数の制作会社は、中国市場に進出できなくなるリスクを恐れ、ここで起用された俳優やスタッフを今後「起用しない」という。台湾、日本だけでなく、インドネシアでも配信されている。
劇中で描かれているように、軍事力による直接的な台湾統一は中国の本意ではない。実際に全面的に武力を行使すれば双方に禍根が残ることになるからだ。中国が描く最も良いシナリオは、浸透工作や軍事的圧力などに対し、台湾人が心理的に屈服することだ。親中政権の誕生も中国の目指す台湾統一への近道だ。
台湾では親中的な野党立法委員(国会議員)が立法院で多数を占める。野党立法委員24人を罷免しようと先月、異例のリコール(解職請求)投票が行われた。少数与党の民進党としては、補選で6議席以上を奪えば過半数を確保でき、安定した政権運営への道が開けるという算段だったが、全て不成立となり、頼清徳政権にとってかえって打撃となった。今月23日にも7人の野党立法委員のリコール投票があるものの、先月のような罷免運動の盛り上がりは見られない。
中国の浸透工作は決して他人事(ひとごと)ではない。日本では特に沖縄がその対象となっている。沖縄には多くの米軍基地があり、中国の海洋進出戦略にとって在沖縄米軍は目の上のたんこぶだ。米軍についてもSNS等を通じ、虚偽情報を広げようとしている。反米軍感情をてこに「独立論」をあおろうとする世論工作も絶えない。
中国の浸透工作は日常で何気なく触れる情報の中に紛れているが、それに気付くことは難しい。このドラマは、言論の自由を利用した浸透工作に惑わされてはいけないという警鐘と捉えるべきだろう。






