
台湾の頼清徳総統が20日、就任1年を迎え、立法院で少数与党のねじれ状態に苦しみ、与野党対立が激化する中、対中国で与野党団結を訴えている。与野党の立法委員(国会議員に相当)に対する過去最大規模の罷免(リコール=解職請求)運動が展開され、7、8月ごろに罷免の是非を問う罷免投票が、年末には補欠選挙が行われ、勝敗が頼政権の安定度を決めることになる。(南海十三郎)
頼清徳政権は発足1年を過ぎ、20日に発表された台湾民意基金会の最新支持率調査によると、45・7%が支持。総統選で得票数4割、少数与党で苦戦を強いられながらも善戦している。中国が軍事演習や軍用機の接近を常態化して圧力を強化する一方、後ろ盾を期待する米国のトランプ大統領が「台湾に半導体産業を盗まれた」と揺さぶり、高い関税をちらつかせることで「疑米論(中国が台湾に武力侵攻した場合、米国の協力が得られない疑念)」が台湾の有権者に強まっている。
トランプ大統領は台湾に32%の相互関税を課そうとしており、日本の24%、韓国の25%より高い。台湾メディア「美麗島」の世論調査では頼総統の支持率が4月調査で8・1ポイント下降。トランプ関税の最終合意次第で支持率は変わるとみられる。

頼総統は今年元日、「国防予算を引き上げ、国を守る」と強調。米側の要望に合わせて防衛費増額を図ったが、立法院(国会=定数113)では与党・民進党が51議席、最大野党・国民党52議席、第2野党の民衆党8議席、野党寄りの無所属2議席となっており、野党系議員62人で優勢。野党の法案が次々と通過し、少数与党は非力の煮え湯を飲まされている。
国民党と民衆党の野党連合が予算審議の主導権を握り、政府は2025年度当初予算案に過去最大の防衛費を盛り込んだが、野党側が激しく抵抗し、削除や凍結を含めると前年度を下回る「国防上、中国を大いに喜ばせ、利する結果となった」(台湾国防部)。
頼総統は20日、総統府での記者会見で「防衛力強化を継続する」「重要な安全保障情報を野党トップに報告する」と超党派の団結を訴え、軍事増強に必要な米国産武器購入によるトランプ関税への対処にも理解を求めた。
頼政権の支持率が下がらない理由は、中国に屈しない毅然とした態度、野党の国会攻勢で危機感を抱いた無党派、中間派の人たち、キャスティングボートを握っていた第2野党・民衆党の支持者の一部が政権支持に回ったことが大きい。
2月以降、与党支持の市民団体が形勢逆転のために国民党の立法委員へのリコール運動を展開。野党も応戦し、立法院の半数程度の50人が解職請求対象となる異常事態となっている。
国民党のリコールの署名には、死亡者の名前が記されているなど、偽造の疑いがあり、台湾検察当局は国民党関係者を捜査。反発する国民党は4月26日、総統府前で大規模な反対集会を行い、朱立倫国民党主席は「司法を使った独裁だ」と訴え、頼総統は「独裁と戦うのであれば北京の天安門に行くべきだ」と応酬。5月20日以降、国民党は立法院で総統の罷免手続きを行うと述べ、与野党対立が激化。総統の罷免は現状ではほぼ不可能だが、泥沼化すれば中国の付け入る隙を与えることになってしまう。
台湾では7、8月ごろ、立法委員罷免の是非を問う罷免投票が行われる見通し。現状では15人前後が罷免される可能性があり、罷免が成立した選挙区では年末の補欠選挙で与党・民進党が6議席以上を奪還できれば過半数を回復し、議会運営、法案提出がはるかにスムーズになる。与野党のリコール合戦による補欠選挙での勝敗が頼政権の政権安定度を決めることになり、民進党の6議席増達成は政権の死活問題になりそうだ。
26年の統一地方選、28年の総統選に向け、与野党対立は激しさを増している。