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台湾に嫁いできた中国人女性が中国による台湾の武力統一を主張したとして、在留資格が取り消され「追放」されたことが大きな波紋を呼んでいる。政府により家庭が引き裂かれたと同情する声や、台湾の土地での振る舞いに怒る声など民衆の反応はさまざま。政府は中国からの威圧が強まりつつある今、台湾社会の言論にも気を配っている。(宮沢玲衣)
世論の7割弱「賛成」
特に大きな話題となったのは、中国人女性の劉振亞さん。中国系短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などに顔出しで「台湾人は中国人」や「中国は祖国」などの主張を投稿していた。幼い娘にも顔出しで日常的に中国を過剰に賛美するような内容の発言も行わせていた。
「大陸(中国)が武力で台湾統一するのに、すでに他に理由などいらない」「遅々として武力統一が進まない」など中国による台湾の武力統一を支持するような発言を行ったことが問題となった。
あるショート動画では始終、見る人を説得するかのようなハキハキとした強い口調で語っており、「祖国統一」と書かれた文字が映されていた。
台湾内政部移民署は先月12日、台湾の安全と社会の安定が脅かされる危険があるとの理由で劉さんの台湾在留資格を取り消し、5年間の再申請を却下した。
劉さんは台湾人の夫と共に25日、内政部の建物の前で「もし戦争になって、ミサイルが飛んできたら台湾人と中国人を区別しない」「私は(中台が)平和的に統一してほしい」とマイクを持って叫んだ。劉さんの夫は「家庭をこのように壊すべきでない」と訴えた。同日の夜、劉さんは中国へ帰国した。

台湾に住む男性へ嫁いできたが、在留資格が取り消された中国人女性は他に2人おり、同様に武力統一を支持するような発言の投稿が問題視された。それぞれ先月31日と今月1日、中国へ帰国した。
劉さんら3人が中国へ帰国した後、移民署は、台湾在住の中国人配偶者約14万人の一部に対し、中国における戸籍が除籍されたことを証明する書類を3カ月以内に提出するよう求めた。台湾ではもともと法律で中国と台湾それぞれに籍を置くことは禁じており、台湾に居住を希望した際に関係資料を提出することになっているが、一部の中国人配偶者らは提出していなかったという。
台湾主要紙・聯合報(電子版)は今月9日の評論で、発行に煩雑な手続きと時間のかかる証明書の提出を求める政府のやり方は公平でないとし、「民進党政府はどれだけの家庭を引き裂けば満足するのか」と批判した。
台湾政府系研究機関の中央研究院の陳培哲氏や左翼連盟の黄徳北秘書長らは先月26日、自由な言論空間が急速に縮小しているとして75人の学者らが署名した声明を発表し、会見を行った。会見では、頼清徳総統が就任して以来、中国共産党と通じているとの理由で異なる意見を抑圧し、台湾社会の対立を激化させたと主張した。
これに対し、自由時報は今月1日、社説で①中国は敵国であるだけでなく、唯一台湾をのみ込むと公言している敵国②中国は「武力統一」の前に台湾に内紛が起こるようにし、台湾の抵抗力を削る③言論の自由は重要だが、決して他のものより高貴で触れることが禁忌なわけではない――というのが基本事項だと反論した。
台湾のシンクタンク「台湾民意基金会」が今月15日に発表した劉さんに対する頼政府の措置の是非を問う世論調査によると、「賛成」と「どちらかというと賛成」が合わせて67.5%で、「反対」と「どちらかというと反対」の26.1%を大きく上回った。
頼氏は先月13日、中国について、台湾への内政干渉を禁じた反浸透法で定義されている「境外敵対勢力」に当たると批判した。台湾総統が中国を敵対勢力と名指しするのは異例のことだ。
中国経済が低迷する中、中国国民の中国共産党政府に対する不満を逸(そ)らすなどの狙いから台湾への武力行使が行われる可能性は捨て切れない。その前段階には必ず、台湾社会を分断する情報戦や威圧が行われる。中国側からさまざまな形で行われる「攻撃」に台湾政府は神経をとがらせている。