
台湾立法院(国会議員)は2月、与党・民進党が少数の「ねじれ議会」となって1年を迎えた。野党が民進党政権に揺さぶりをかけ続け「国会の乱」とまで呼ばれる1年となった。野党委員の裏に中国の影が見え隠れする状況にあり、「民主主義の危機」と民進党は警鐘を鳴らす。台湾の内政が混乱する中、中国の圧力は日増しに強まり、内憂外患の状況が続く。頼清徳政権は厳しいかじ取りを迫られている。(宮沢玲衣)
昨年の総統選と同時に行われた立法委員選の結果、台湾の立法院は113議席中、国民党52議席、民進党51議席、民衆党(第3党)8議席、無党派2議席となった。2大政党に不満を持った若者を中心に票を集めた民衆党がキャスチングボートを握ったことで、議題によって是々非々で議会運営が行われることが予想された。しかしこの1年、民衆党は国民党に追従する動きが目立った。特に創設者で党首だった柯文哲氏が8月に逮捕されてからはそれが顕著だ。
昨年の5月ごろ、野党2党が共同で立法院の権限強化法案を提出。立法院での総統の政治報告義務や立法院の調査権拡大などを盛り込んだもので、与党や約7万人(主催者側発表)の市民が連日、抗議集会をするなど反発したが、野党は採決を強行した。採決時には乱闘が起きるなど、台湾社会では「国会の乱」という言葉がネットにあふれた。
引き続き、野党は12月、政治家などの公人の罷免を難しくする法改正などを提出し、可決した。審議前夜には立法院周辺で約1万人(主催者側発表)が抗議。議会では、もみ合いになるなど5月に続いて台湾社会を騒然とさせた。
民進党国際部はSNSで、国民党が他党の立法委員の発言を妨げ、十分な審議がないままに改正案を一党審議により強行採決させたと日本語と英語で投稿。野党の行動が「台湾の民主主義制度に明白かつ重大な危険をもたらしている」と強い危機感を示した。
頼総統は新年の談話で、台湾統一を掲げる中国の軍事的脅威から継続的な防衛費の拡大を訴え、日米などの民主主義諸国と安全保障面で協力を強めていく姿勢を示し、野党を牽制(けんせい)した。しかし、行政院(内閣)が提出した2025年政府予算案は、野党の反対で大幅な削減を余儀なくされた。防衛に関する予算も一部削減の対象となった。行政院が提出した予算から日常の訓練などに充てる業務費は3割、潜水艦開発費は5割に当たる10億元などが凍結された。国防部副部長の柏鴻輝氏は「(台湾の)戦力に影響するのを最も喜ぶのは中国だ」と厳しく批判した。
こうした野党の動きには中国の影が見え隠れする。立法院の国民党トップの傅(ふ)崐萁(こんき)氏は4月下旬に訪中し、中国で対台湾政策を統括する王(おう)滬寧(こねい)氏と会談した。元総統の馬英九氏や国民党の立法委員らもたびたび訪中しており、中国との関係性を内外にアピールしている。
米国シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は「中国共産党は、国民党指導層との交流を利用して党の正当性を主張しつつ、頼清徳政権と民進党に対して強制的な圧力をかけ続けている」とし、台湾に軍事的圧力をかけることで中国と平和的な関係を築けるのは国民党だと台湾の人々に思わせようとしていると分析した。主要紙・自由時報は4日の社説で「青(国民党)と白(民衆党)が手を組んで頼政権を骨抜きにするのは中国が最も歓迎すること」と強く批判した。