5月20日に就任したばかりの頼清徳政権が立法院(国会に相当、定数113)で少数与党となり、「ねじれ状態」になったことで野党主導の立法院の権限強化法案が通過し、苦境に直面している。台湾が実効支配する離島・金門島の上空では同月8日、中国側がドローンを遠隔操縦して中台統一を呼び掛けるビラを投下した映像がSNSで公開され、緊張が走っている。(南海十三郎)
1月の立法委員(国会議員)選挙で与党・民進党は過半数に及ばない51議席しか獲得できず、最大野党・国民党(52議席)と第2野党・民衆党(8議席)の主導する立法院の権限強化法案が5月28日、採択され、賛成多数で通過した。
台湾では、1996年の民主化された総統選以降、与党が立法院で過半数を獲得しているか、少数与党であるかで政権運営の安定度が格段に違ってきた。2000年、民進党が与党となった陳水扁政権では、特に2期目で少数与党の弱体化が顕在化し、ねじれ現象のために米国からの潜水艦供与を実現させる法案が野党・国民党の抵抗で通過しないなど、安全保障上の危機に直面しており、政権のレームダック(死に体)化が進んだ教訓がどこまで生かされるのか、問われている。
今回通過した立法院権限強化法案は立法を司(つかさど)る立法院の権限を増大させる職権行使法、国会軽視罪を含む刑法改正が総統の権限、行政の権限を抑圧し、バランスを欠いた行き過ぎた内容だとの与党議員からの猛反発があり、議場で与野党の議員の間で乱闘騒ぎとなり、6人が病院に搬送された。
法案が通過した5月28日、与党・民進党の支持者ら2万人が立法院前の青島東路に集まり、「青鳥行動」という名前の抗議デモ活動として台湾各地で広がり始めている。参加者らはひまわりの花を持ち、「討議が十分に尽くされていない」と主張。14年3月に馬英九国民党政権下の中台サービス貿易協定に反対する若者中心のひまわり学生運動を彷彿(ほうふつ)とさせる動きになりつつある。
民進党は今後、憲法審査会に法案の問題点を告発する動きを強めており、親中派で知られる韓国瑜立法院長(国民党所属)の権限が強まることで今後の動向次第では与野党協議はさらにこじれそうだ。
中国の亡命作家、民主活動家の袁紅氷氏が入手したとする中国共産党内部文書「台湾立法院での統一戦略要点」によると、今年1月27日の時点で「統一戦略の主戦場は台湾立法院」との指示があり、習近平指導部は「台湾独立を企む」頼政権に対して立法院での与野党対立による内部矛盾で揺さぶりを掛ける工作の重要性を指示している。
中国軍は台湾立法院が混乱する5月23、24の両日、台湾を取り囲むように演習「連合利剣2024A」を行い、頼政権を発足直後からいきなり威嚇。頼総統の就任演説での「主権の独立」や「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」との発言に猛反発し、今後の言動次第では台湾の海上封鎖を想定し、さらに大規模な軍事演習、武力統一も辞さない姿勢を示した形だ。中国軍は22年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台時、23年4月にも同様の演習を行っているが、今回は新たに中国大陸に近い金門島や馬祖島付近に中国軍艦艇や中国海警局船舶が加わった。
台湾各紙によると、5月8日、台湾が実効支配する金門島馬山観測所上空で中国側がドローンを遠隔操作して中台統一を促すビラを投下。金門県警察当局は正体不明のドローン1機を発見し、攪乱(かくらん)すると、ドローンは移動したという。「TikTok(ティックトック)」中国国内版の「抖音(ドウイン)」ではビラ投下の模様を公開した。金門島領空では、4月8日、5月25日にも同様のドローンによる侵入が発生しており、台湾軍は警戒を強化。地元住民は「ビラではなく、爆弾が投下されたらどうなるのか」と不安を募らせている。中国は、台湾包囲網の浸透工作を着実に進めている。