
20日に発足した頼清徳政権の直面する課題の一つが、外交関係だ。蔡英文前政権の8年間で、台湾と断交した国は10カ国に及ぶ。そんな中、頼氏は「民主主義の台湾」を掲げ、閣僚に日本や米国と縁のある人物を起用。国交に頼らない「価値観外交」を強化していく姿勢が見て取れる。
台湾外交部の発表では、頼氏の総統就任式に参列した海外からの来賓は51団体508人で、蔡英文前総統の約700人よりも200人ほど少ない。そのうち大統領・首長を派遣した国は太平洋、アフリカ、中南米などの8カ国だけだった。
正式な外交関係を持つ国も22カ国あったのが、今年1月に太平洋の島国ナウルが中国との国交樹立を発表したことで12カ国にまで減った。その12カ国の経済規模の合計は世界全体の0・17%、人口は0・5%未満だ。
それでも、頼氏が焦りを見せる様子はない。就任演説で頼氏は「台湾には世界が必要で、世界も台湾を必要としている」と強調。国防の強化と経済安全保障の構築、両岸(中台)関係の安定を掲げた。また、「世界中の民主主義国家と肩を並べて、平和の共同体を形成することによって抑止力を発揮し、戦争を回避し、実力によって平和という目標を達成せねばならない」と、価値観外交を強化する構えを改めて述べた。
この「世界も台湾を必要」というフレーズは、多くの人にとって異論がないだろう。続けて頼氏が「現在の台湾は、半導体の最先端のプロセス技術を掌握し、AI革命の中心に立っている。それは『世界の民主的サプライチェーン』の鍵を握る存在」であると述べた通り、IT技術を支える半導体の主要な産出国である台湾を、国際社会は無視できなくなっている。
地元紙「自由時報」系の英字紙「タイペイ・タイムズ」は新政権発足に先立つ18日、「台湾への支援を倍増させる」と述べた米国当局者の話を1面で取り上げた。
日本や米国との縁は、頼氏と蕭美琴副総統を筆頭に深いものがある。日本の神戸市生まれである蕭氏は、米国人の母を持ち、昨年秋まで駐米代表を務めた米国通として知られる。また頼氏が、台南市長時代の2016年、熊本地震の際に大きく支援したことを記憶している人も少なくないはずだ。
外交部長(外相)に抜擢(ばってき)された林佳龍氏は、蔡英文前政権で交通部長(国交相)と総統府秘書長を務めた人物で、蔡路線の継承を反映した人事とも報じられた。台中市長時代にはたびたび訪日し、国会議員や小池百合子東京都知事らとの会談を重ねている。
頼政権の親日ぶりは、今回の総統就任式からもうかがえる。訪台した日本の超党派議員連盟「日華議員懇談会」(日華懇)は式典後、頼氏との昼食会に招待された。
現地通信社「中央通訊社」は、20日に日華懇の古屋圭司会長(自民党)が台北市内で開いた記者会見の内容を報じた。報道によると、昼食会に招かれたのは日本の訪問団のみで、古屋氏は「日本に対する配慮。日台関係の信頼と絆の深さの象徴」だと語ったという。
外交関係を持つ国々との交流も忘れていない。中央通訊社の報道によると、頼氏は21日、南米パラグアイのペニャ大統領と総統府で面会。国際社会でペニャ氏が台湾のために公正な発言をし、台湾の国際参加を支持したと謝意を表した。
台湾の防衛や安全保障問題に詳しいある学者は、こう語る。「台湾と国交を持つ国が減ると困るのは、むしろ北京(中国政府)の方だ。外交関係を通じた揺さぶりは、抑制していくのではないか」
価値観外交の推進がブレない限り、頼政権の外交戦略は、幸先が明るそうだ。
(台北・辻本奈緒子)