【連載】台湾に迫る中国の脅威 頼新総統、問われる手腕 (1)

20日、台北で行われた就任式で演説する台湾の頼清徳新総統(2024年5月20日 村松澄恵撮影)
20日、台北で行われた就任式で演説する台湾の頼清徳新総統(2024年5月20日 村松澄恵撮影)
台湾の頼清徳総統が20日就任した。蔡英文前政権を引き継ぎ中国に対する強硬姿勢を鮮明にする頼氏は、就任演説で、「独立論」を封印したものの、中国と対等の立場で対話に応じる考えを示した。中国が「台湾統一」を公言し、軍事力を行使する台湾有事が懸念される中、新政権はどのようにかじ取りをするのか課題と展望を現地から報告する。(台北・村松澄恵)

「台湾と中国の間には台湾海峡があるし、ミサイルで台湾を焦土にしてしまえば、中国にとっても価値がなくなってしまう。だから台湾は安全な所だよ」。多くの客でにぎわう百貨店内にあるレストランで隣に座った新北市在住の53歳女性は、「台湾はいつ戦争が起きるか分からない危険な所」という認識の国際社会に対して、台湾人の一般的な認識を記者に語った。

しかし、中国の習近平国家主席は中国の夢として、「中華民族の偉大なる復興」を掲げている。先月、台湾最大野党・国民党の馬英九元総統との会談で、「共同で平和統一の美しい未来を追求しなければならない」と台湾統一への強い意思を改めて示した。

現在、異例の共産党総書記3期目を務める習氏が、4期目を続けるには毛沢東すらも成し得なかった「台湾統一の業績」が必要だと分析する専門家は多い。中国大陸にルーツを持つ最大野党・国民党と共に、「台湾独立勢力」と敵視する民進党政権への揺さぶりを掛け続けている。

台湾に対して、中国は軍事的な圧力もかけている。台湾と中国大陸間にある台湾海峡のほぼ中央に「中間線」と呼ばれる暗黙の境界線があり、長年、中台の平和維持に貢献してきた。中間線は台湾と中国の敵対意識が大きく高まった1954年に設定された。中国政府は正式に存在を認めはしないものの、中間線を尊重する姿勢を見せていた。

ところが、2022年8月にペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した後、中国軍はそれに反発し、台湾を包囲した大規模演習を実施。それ以降、中国軍機が日常的に、台湾海峡の中間線を越えて台湾に接近するようになった。中間線の形骸化を行うことで、台湾への圧力を強める狙いだ。

 今年2月に発生した台湾の離島・金門島沖合では、台湾海洋当局の追跡から逃れようとした中国漁船が転覆して2人が死亡した。この事故を機に、中国は周辺海域における海警船の巡視活動を強化し、台湾側水域に入り込む回数も増えた。

目に見えて増加する中国側の軍事的な圧力からか、「民進党政権では戦争になってしまう」と弱気な人々の声も少なくない。

頼氏は20日の総統就任式で、台湾の人々に対し「中国によるさまざまな脅威や浸透工作に対して、私たちは“国”を守る決意を示す必要がある」と強調。その上で、価値観を同じくする民主主義の国々と共に「平和的な共同体を形成し、抑止力でもって、戦争を回避し平和をもたらす」と訴えた。

前任の蔡英文氏は2016年の就任演説で、中台を「(台湾海峡)両岸」と表現し、中国が掲げる「一つの中国」原則を一定程度尊重した。頼氏は一歩踏み込んだ。演説で「中華民国(台湾)と中華人民共和国は互いに隷属しない」と述べ、台湾と中国は対等な関係にあると主張した。さらに、「中華民国の国籍を有する者は、中華民国国民とする」とする台湾の憲法にあえて言及した。

頼氏はかつて「台湾独立工作者」を自称。昨年1月の記者会見では「台湾は既に独立国家であり、改めて独立を宣言する必要はない」と語っている。

冒頭の女性は、頼氏について「台湾独立の意識は強い人だが、頼氏は市議や台南市長(知事に相当)も務めた。貧しい家庭で苦労して育っているので、エリート政治家と違って一般市民の気持ちが分かっているはずだ。これから台湾をどう導くのかよく見ていきたい」と期待を寄せた。

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