3月初めに韓国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の推定人数)が暫定値で世界最低の0・72と発表され、衝撃を与えた。実は、台湾も出生率が1を下回るほど低いが、日本では意外と知られていない。(村松澄恵)
「子供は“高い”から将来結婚してもいらない」――。これは台湾の20代からよく聞く一言だ。台湾でも日本と同様に子供を養育するのは教育費や自由時間の減少などから「コストが高い」として、子供を持たない選択肢を取る若者が増えてきている。
台湾行政院(内閣)で経済計画を所管する「国家発展委員会」によると、台湾の2022年の出生率は0・87。内政部が2月に発表した23年の出生数も台湾史上最も少ない13万5571人で、少子化問題が再度注目された。同委員会は総人口が将来的に、現在の約2300万人から、70年には約1600万人へと約30%減少するとの見通しを示している。
少子化の背景として、若者の低賃金や晩婚化といった日本と共通する理由以外に、台湾では住宅費の高騰がある。住宅費の問題は深刻で、今年1月に行われた総統選挙で争点になったほどだ。
台湾の不動産は日本とは異なり、価値が下がることが少ないため、資産家は不動産を投資対象としている。一般市民にとっては給料は大きく変化しないにもかかわらず、家賃は上昇し負担が増している。
内政部が昨年10月に出した年所得に対する住宅取得価格の資料によると、台湾全体で平均9・82倍、台北市の住宅であれば15・52倍もの差だった。これは10~15年の間飲まず食わずで働かなければ住宅が購入できない金額だとして、メディアで大きく報道された。
また、妊婦が職場で冷遇されやすいことも子供を多く持たない、産まない大きな理由の一つとされている。過去には違法にもかかわらず、「妊娠しない」という条件で雇用契約を結ぶといった事例まであった。妊娠、出産、子育てで冷遇されることがあるため、女性のキャリア形成にとって心理的な「障害物」となっている現状がある。
台湾の離島、澎湖島で地元メディアを運営する張弘光氏は、台湾の少子化について「生活費、住宅費、教育費の高騰で若い人たちからすれば子供を養える状態ではなくなっている」と分析。女性の妊娠、子育てで理解が得られにくい状態も問題だと憂えた。
張氏は一方で、台湾の選挙は頻繁にあり、与野党の支持率がそれぞれの岩盤層によって大きく変わらないことから、浮動票の奪い合いになっていると指摘。このため、政府は有権者の支持を得ようと努力しており、「有権者の声が重視されやすくなった。社会の理不尽な部分も少しずつ改善されていくはずだ」と話した。
台湾北部の新北市に住む45歳の女性は、「少子化は多くの先進国の抱える避けられない問題。政府の政策によって、少子化速度が緩和し、人々の幸福度が上がるように願っている」と語った。
台湾政府や地方政府は少子化対策として子供手当や減税などを行ってきた。しかし、出生率と出生数の下落に歯止めがかからず、効果が出ていないのが現状だ。