台湾総統選の開票結果が出た13日夜、勝利した与党・民進党の頼清徳副総統は「台湾を世界のキーワードにし続ける」と力強い表情で訴えた。翌14日、台湾外交部(外務省)は頼氏当選に対する祝意が日米仏など50カ国以上から寄せられたと発表した。この数は蔡英文政権の実務関係による外交実績の表れであるとともに、台湾の民主主義を支持するサポーターの数と言える。
<前回>台湾次期政権 展望と課題(上) 対中国戦略 総統就任日まで警戒必要
これに対し、中国外務省は同日、祝意を送った各国に反発する談話を出し、即座に牽制(けんせい)した。頼氏は蔡氏の「現状維持」の対中政策を取ると主張するが、中国からは敵視されてきた。頼氏が行政院長(首相に相当)時代に「台湾独立の実務家」と自ら発言したこともあった。
実際、台湾有権者の多数が対中関係において「現状維持」を望んでいることも踏まえ、頼氏は独立色を抑えた選挙戦を展開した。政権をスタートさせてからも、対中関係では難しい舵(かじ)取りを迫られることになる。
元在沖縄米海兵隊政務外交部次長で政治学者のロバート・エルドリッヂ氏は投票前日の12日、本紙の取材に、民進党と最大野党・国民党のどちらが勝っても米中両国との関係は良くならないと指摘した。「中国は台湾を国際的に孤立させようと、諸国に外交圧力をかける。今後も経済的にも軍事的な圧力をかける」と予想。台湾が独立するイメージが強まれば、バイデン米政権との関係も悪くなると懸念を示した。
エルドリッヂ氏の予想は選挙翌日、いきなり現実のものとなった。南太平洋の島国ナウルは15日、台湾と断交し、中国との国交樹立を決定したと発表した。当選ムードの中、民進党にとっては痛手だった。突然のニュースに台湾外交部も「奇襲攻撃のようで民主主義へのあからさまな攻撃だ」と非難。「中国が選挙直後のタイミングを選んでナウルを標的にした」とし、「台湾は圧力に屈しない」と訴えた。
米国もすかさず反応した。頼氏は 15日、ハドリー元米大統領補佐官(国家安全保障担当)率いる非公式の米代表団と会談した。ハドリー氏は「米台関係を継続し、台湾海峡の平和と安定を共同で守りたい」と表明した。
引き続き、米中関係が緊張すると予想される。台湾次期政権には、米国との関係を基軸にしながら、中国を刺激しない「バランス外交」が求められる。綱渡りのような状況下で、頼氏が熱い視線を送るのが米国と同盟関係を持つ日本だ。
頼氏は 選挙から一夜明けた14日朝、日本の台湾に対する対台湾窓口機関「日本台湾交流協会」の大橋光夫会長との会談に臨んだ。同会長と笑顔で抱擁した頼氏は「日本は台湾にとって非常に緊密な民主主義のパートナー」と強調。対日関係重視の姿勢を世界にアピールした。
日本と台湾は正式な外交関係がない中でも、災害復興支援や観光などの市民レベルで“絆”を着実に深めてきた。
一方で、日台の経済連携において最も重要な柱は、台湾が世界シェアの過半数を占める半導体産業だ。今年2月には、半導体企業の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設した工場の開所式が行われる。
台湾情勢に詳しい平成国際大学の浅野和生教授は、次のように指摘する。「台湾の経営者は日本人労働者を信頼している。日本人の気質やモラルが信用に値するという。先端技術の漏洩(ろうえい)が危険視される中、半導体分野でもより日台連携が進むだろう。経済安全保障の面でも日本の果たすべき役割は大きい」
(竹澤安李紗)