台湾次期政権 展望と課題(上) 対中国戦略 総統就任日まで警戒必要

記者会見で中国の選挙介入について話す台湾の呉 外交部長 = 9日、台湾・台北市(村松澄恵撮影)

台湾総統選・立法委員(国会議員に相当)選が13日に投開票され、親米派の与党民進党・頼清徳氏が次期総統に選ばれた。ただ、民進党は議会議席の過半数を失い、厳しい政権運営を迫られる。選挙結果を受けての中国など国際社会の反応、外交政策の行方、台湾社会の課題を展望する。

「主流の民意を代表できていない」「中国の台湾」

頼清徳副総統の得票率が40%にとどまった上、民進党が議会での単独過半数を失い第2党に転落したことを踏まえて、中国の台湾政策窓口担当である国務院(政府)台湾事務弁公室はこう表現。台湾の独立に反対する立場を強調した上で、中台対話の前提条件として「一つの中国」で合意することを台湾側に要求した。

頼氏は、中国との融和よりも対米関係を重視する蔡英文現総統の路線を継承する。今後も米国や日本など価値観を同じくする友好国と連携するほか、国産潜水艦の実戦配備など自衛力強化を図る方針だ。

台湾メディアによると、選挙結果を受け中国共産党関係者は「中国政府の公式発表では台湾は常に中国の一部であり、中国は遅かれ早かれ統一を完了する」と発言。軍事的手段も辞さない考えも示した。武力統一に踏み切る可能性はより高くなったとの見方だ。

選挙翌日の14日、台湾国防省は、台湾付近で中国人民解放軍の軍艦4隻を発見し、中国の気球が台北近くの北西海岸沖上空に飛来したと発表した。それでも、2022年8月にペロシ米下院議長(当時)が訪台した際に約10発のミサイルを台湾に向けて発射するなど猛反発したことに比べると穏やかだ。

14日、海外メディア向けに行われた選挙結果とその影響に関するシンポジウムでも、台湾有識者はそろって中国の反応を冷静に受け止めていた。台湾の大手シンクタンク遠景基金会の頼怡忠執行長は、「総統選後すぐに中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行わず、中国がすぐに動くことはないだろう」と分析。その上で同執行長は、中国の習近平国家主席にとっては、国民党陣営が勝った方が、在任中の“悲願”とされる台湾攻略はかえってやりにくかっただろうと指摘した。

頼氏が総統に就任する5月20日までは警戒が必要だ。現職の総統が次期選挙に立候補しない場合、次期政権が成立するまでは国家運営において最も脆弱な時期となり、レームダック化する危険性があるからだ。軍のトップである参謀総長など軍指導層が一斉に交代することはないが、行政院長(首相に相当)や国防相などの閣僚は新たに任命されるため、一時的に政府の機能が脆弱になることは避けられない。

選挙戦では中国の選挙介入がクローズアップされた。台湾外交部(外務省)の呉釗燮部長は選挙期間中、海外メディア向けに選挙介入に特化したレクチャーをし、「中国は、軍事的挑発、政治プロパガンダ、経済的な利益誘導、サイバー戦争、偽情報発信などのハイブリッド戦略を用いて世論を操作している」と異例の注意喚起をした。総統選の結果だけを見れば、中国の選挙妨害は失敗したと言えるが、楽観できない。

民進党陣営は「中国の介入は総統選の結果を変えるほどの力はなかったが、立法委員や地方選挙レベルになると影響がある。将来的には地方選挙の結果が中央の政治に影響することもある」と警戒感を示した。総統選が終わっても、フェイクニュースや中国マネーを介するなどしたハイブリッド戦略は緩むことはないだろう。(豊田 剛)

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