未来は自分たちで決める きょう投開票 高まる台湾人アイデンティティー 総統・立法委員選 対中最前線 台湾の選択(5)

与党・民進党の頼清徳副総統の最後の訴えを聞きに集まった 支持者ら=12日、台湾・新北市(竹澤安李紗撮影)

「私は台湾人だ。中国人じゃない」――。記者が台湾留学したばかりの時に友人(当時18歳)から少し怒ったように言われた一言だ。

自身を「台湾で生まれ育ってきたから私は台湾人」とする人が今では大半だが、年代によっては「国の名前は中華民国だから中国人(中華民国人)でもある」と話す人もいる。日本では台湾の正式名称は中華民国と説明されることも多いが、台湾人にとっての中華民国は日本の認識とは温度差がある。

<前回>中国の影響工作 カギ握る若者世論を誘導 総統・立法委員選 対中最前線 台湾の選択(4)

中華民国はもともと、中国大陸で1912年に清国を倒して樹立された。その後、中華民国の国民党政府は共産党との内戦で敗れ、49年に台湾へ逃れた。台湾からすれば、中華民国成立当時は日本に統治されていたため、国民党政府を受け入れた時に中華民国となったといえるだろう。

大陸から渡ってきた蒋介石らは台湾で政権を握った後、台湾にもともといた人々の生活を厳しく制限するなどした。タバコを違法で売っていた台湾人女性に取り締まりをする役人が暴行を加え、抗議した民衆を射殺した「2・28事件」を契機に募った不満が爆発。台湾全土に反政府運動が広がり、それを厳しく弾圧・統制する国民党独裁時代が訪れた。

今の与党・民進党は独裁政権時代の国民党に反対する社会運動を行っていた人らが集まってできた政党だ。党の綱領には外来政権の中華民国政府体制から台湾を解放し、「台湾共和国」を設立することが掲げられているが、台湾を取り巻く現状から中華民国体制を容認。民進党の総統候補、頼清徳党首は「中華民国台湾は主権があり、中華人民共和国とは隷属しない」「独立を宣言する必要はない」との見解を示している。

ここ数年、蔡英文総統や頼氏は「中華民国台湾」と呼称している。そうすることで、「中華民国」の名称は、固有名詞として使用されているものとなり、「台湾」に現存する統治体の名称にすぎないとも解釈できる。少しずつ「中華民国」の形骸化を行っているとも捉えられる。

民進党が「台湾」のアイデンティティーにこだわる政党であるのに対して、最大野党・国民党は「中華民国」のアイデンティティーにこだわる。高雄市で7日、3万人以上が集まった国民党の集会では「民進党は中華民国をなくそうとしている。中華民国を守るんだ」と司会者が大きな声で叫び、青天白日満地紅旗(中華民国の旗)を振って支持者らは応えていた。民進党の集会では中華民国の旗を見掛けることはなかった。

昨年10月10日に行われた辛亥革命を記念する「双十節」(中華民国の建国記念日)の式典は、英語で「Taiwan National Day」と表記された。これに対して、国民党の馬英九前総統は強烈な拒否感を示し、出席しなかった。

第3党・民衆党の柯文哲・前台北市長の集会には、中華民国の旗を振る若者も多くいた。柯氏は「中華民国台湾」は民進党内だけの共通認識にすぎないとの見方を示している。

台湾の政治大学選挙研究センターが昨年6月に発表した世論調査結果によると、自身を台湾人と認識するのは62・8%、中国人(中華民国人)は2・5%、その両方は30・5%だった。1992年の時点では、台湾人は17・6%、中国人(中華民国人)は25・5%、両方が46・4%で、この30年間で割合が大きく変化したことが分かる。

調査する年によって数字に多少の上下はあるが、自身を台湾人と自認する人は増え、中国人(中華民国人)と捉える人は減少傾向にある。これに伴い、台湾の未来は自分たちで決めるという「台湾人意識」が高まっている。しかし、中国との複雑な関係から、台湾人意識とは別に今すぐ「台湾独立」を望む声は少数派で、「現状維持」を望む声が圧倒的多数だ。

台湾のアイデンティティーを巡る問題は、選挙結果を左右する要因の一つ。台湾総統・立法委員(国会議員)選は13日に投開票が行われる。どのような結果になっても、台湾にとって重要な選挙として歴史に残ることは間違いないだろう。(台北・村松澄恵)

=終わり=

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