
「民進党政権下で台湾は九つの外交相手国を失った」。台湾総統選も佳境に入った昨年12月28日、政見発表会で第3党・民衆党候補の柯文哲・前台北市長はこう非難した。蔡英文総統が政権を握った2016年からの8年間で、台湾と外交関係を結ぶ国は22から13に減った。こうした外交上の孤立をどう避けるかが争点の一つになっている。
<前回>関税措置で揺さぶる中国 経済安全保障 総統・立法委員選 対中最前線 台湾の選択(2)
蔡総統が訪米の予定を発表した昨年3月下旬、中米ホンジュラスは長年維持してきた台湾との外交関係を断絶し、中国と国交を樹立した。これに対し蔡氏は遺憾の意を示した。その際、「中国は台湾の国際的参加を常に妨害している」とし、「共通の理念を持つ国々との協力と連携を深めていく」と改めて表明した。
中国は近年、台湾を国際社会から孤立させるため、台湾を正式に国家承認している中南米などの国々に対し〝札束外交〟で圧力を強めている。ホンジュラスも巨大ダム建設のため、巨額の経済支援を中国から受ける代わりに台湾との断交を迫られた。
外交関係を結ぶ国が減少した一方、蔡政権はそうした中国の圧力に屈せず「堅実な外交、互恵互助」という目標の下、米国をはじめ民主主義陣営との協力強化を重視した。8年間に蔡氏はトランジット外交として7度も米国に立ち寄った。昨年4月にはマッカーシー米下院議長(当時)との会談を実現した。
半導体などハイテク産業で存在感を示す台湾は、安全保障分野だけでなく経済・貿易分野でも各国との結び付き強化を図っている。台湾が参加を目指す国際連携の一つが、日本が主導して発足した自由貿易協定「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」だ。中国も申請したことで加盟申請協議が難航しているが、台湾としては現加盟国に対しどれだけ支持を得られるか課題が残る。
国際社会における生存空間の拡大を目指すたび、それを許そうとしない中国の壁が必ず現れる。こうした状況を突破するため、台湾の総統にはとりわけ外交力が求められる。台湾の有権者も総統候補に対し、米中相手に上手(うま)く立ち回る外交手腕があるかを重視している。
主要3候補は昨年、相次いで外遊を行い、それぞれ外交手腕を発信した。米国留学の経験から知米派である民進党の総統候補・頼清徳副総統は、蔡氏の「抗中親米路線」を引き継ぐ。昨年8月、南米パラグアイ訪問時に経由地として訪米した。要人とは接触しなかったものの「台米関係は過去最高に良好」と、米国とのパイプを静かにアピールした。また頼氏は22年7月、安倍晋三元首相弔問のため、事件直後、個人として訪日するなど親日家でもある。
最大野党・国民党候補の侯友宜・新北市長は昨年、日本やシンガポールをはじめ、米国にも足を運び、複数の下院議員と接触した。「親米和中路線」を訴えるも、警察官僚出身で新北市の行政経験しかない侯氏は外交上の実績に欠けると心配する声が上がっている。
他方で、民衆党の柯候補は昨年4月から米国の議会などを訪問した。蔡政権の外交路線を踏襲しながら、対中関係では対話再開を主張するなど、より柔軟性を持たせる方針を持つ。
誰が総統に選ばれても一定の外交上の継続性はある。ただ、3候補の外交センスや戦略は異なるため、台湾の未来は大きく変わる。台湾情勢に詳しいある大学教授はこう指摘する。
「次期総統の外交力は、台湾存亡のカギを握るともいわれる。米中対立が激化し、台湾の一挙手一投足に世界が注目する中、価値観外交を基にした信頼関係の構築が求められている」
(台北・竹澤安李紗)