台湾有事リスク 薄い危機感 国際社会が連帯を 総統・立法委員選 対中最前線 台湾の選択(1)

中 国 に 対 し て 強 硬 な 姿 勢 で 一 貫 し た 蔡 英 文 総 統 ( 中 央 ) = 6 日 夜 、 台 湾 ・ 新 北 市 ( 豊 田 剛 撮 影 )

4年に1度の台湾総統選と立法委員(国会議員)選挙が13日、投開票日を迎える。中国と距離を置き対米関係を重視する与党・民進党と、対中融和路線の最大野党・国民党を軸に、主要3政党が競う。東アジア・世界の安全保障に大きな影響を与える同選挙の主な争点を現地から報告する。

「今回の選挙は戦争か平和かの選択。民進党に投票すれば台湾の人々が戦場に行くことになる」。最大野党・国民党の侯友宜候補がこう訴えた上で、中国との対話を基調とする融和政策で人々の平和と安全を確保すると主張した。さらに、副総統候補の趙少康氏は1日のテレビ討論会で、「台湾にリスクをもたらしているのは民進党。危険の始まりになる」と牽制(けんせい)した。

一方で、与党・民進党は、対中防衛を万全にすることで平和を維持できるという立場だ。民進党の蕭(しょう)美琴副総統候補は同討論会で、「世界公認のリスクの元は中国共産党であり、台湾でも民進党でもない」と反論。総統候補の頼清徳氏と一緒に、蔡英文総統の対中強硬路線を引き継ぐ方針を改めて示した。

第3勢力・民衆党の柯文哲候補は民進、国民両党によるこうした対立に不満を抱く若者層を取り込む。4日の選挙集会で「民進党は『反中』を票にしてきた。中国を巡る民進党と国民党のイデオロギー対立が社会の分断を招いてきた」と批判。有権者の関心を台湾海峡のリスクから経済や暮らしの問題に向ける。

しかし、投票日が近づくにつれて、中国の習近平国家主席の発言が露骨になっている。中国指導者・毛沢東の生誕から130年を迎えた昨年12月26日の演説では、「いかなる方法であれ、台湾を中国から分裂させることを断固阻止する」と表明。新年に向けた演説では「祖国統一は歴史的必然だ」と強調し、台湾統一への決意を語った。

台湾を巡る米中の対立も激しさを増す。昨年11月、米中首脳が首脳会談を行った際、バイデン大統領は台湾周辺での中国の軍事的な行動が緊張と懸念を高めていると指摘し、台湾総統選に中国が介入しないよう要求。これに対し習氏は「米国は中国の平和的な統一を支持すべきだ」と反論した。

台湾国防部(国防省)は昨年9月、最新の「国防報告書」を発表。その序文で、邱国正・国防部長(国防相)は「中国からの容赦ない現実的な軍事侵略の脅威にさらされている」と指摘している。「中国は、台湾に対する武力行使を放棄しない意思を示し続けている。航空・海上封鎖、限定的な武力行使、航空・ミサイル作戦、台湾への侵攻などの軍事的選択肢を発動する可能性がある」と危機感を示した。

白書は、22年以降、中国の軍用機や艦艇が台湾海峡を越え「台湾周辺の海空域に多面的に侵入している」とも分析。実際、9月に中国軍は台湾有事を想定した大規模軍事演習を実施した。その際、100機を超える中国軍機が台湾周辺海域を飛行。40機が台湾海峡の中間線を越えた。

米国の情報機関は、中国は「2027年までに台湾有事の際の米国の介入を抑止するだけの軍の態勢を強化・整備するという目標を立てて、取り組みを進めている」と分析している。しかし、いつ台湾有事が起きるのか、予想は難しい。

元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、「中国が台湾に軍事侵攻するには半年の準備期間が必要であることから、半年以内には侵攻がないことは確実に言える」と話す。ただ、2022年2月24日にロシアがウクライナを軍事侵攻した際、その可能性やタイミングについて大方の専門家の予想は外れたことから、田母神氏は「独裁者の習氏には常識が通用しないため、楽観視することは危険だ」と警戒する。

台湾の現地では、台湾有事を心配する声はあまり聞かれない。台湾在住の元政治家秘書は、「中国が本気で攻めてくるとの危機感はまだ薄い。だからこそ、日本をはじめとした国際社会が台湾有事のリスクを共有し、連帯を示すことが必要だ」と話す。(台北・豊田 剛)

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