台湾で陳水扁政権時代に女性初の副総統を務めた呂秀蓮氏(79)はこのほど来日し、世界日報の単独インタビューに応じた。混乱する世界情勢の中で、日本と台湾と韓国は「唇歯輔車(しんしほしゃ)」(運命共同体)の関係であると強調。同じ民主主義の価値観を持つ日台韓がソフトパワーを生かして連携すれば、「世界の平和と安全の牽引(けんいん)役になれる」との持論を展開した。また、自身の理念を実現する上で女性が果たす役割の大きさを強調した。(豊田 剛、村松澄恵)

中国の軍事力拡大によって緊張感が増す東アジア情勢について、呂氏は中国だけでなく弾道ミサイル発射を繰り返している北朝鮮の脅威を指摘し、「台湾有事が起こる前に日本と韓国の有事が先に起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らした。
日台韓で世界平和モデルを 元台湾副総統・呂秀蓮氏インタビュー(上)
「中国は歴史を直視せよ」 元台湾副総統・呂秀蓮氏インタビュー(下)
また、中東やウクライナなど世界各地で争いが起きている現状に対し、米軍の戦力が分散される隙を中国が狙う可能性があると危機感を示した。
現在、中東で起きている紛争について、「2000年来のユダヤ人とアラブ人の間にあった恨みが根幹にある」とし、エスカレートする争いで犠牲になっている人々への同情を示した。また、「戦争を防ぎたければ『投資』する必要がある。病気になる前に保険に加入するのと同じ理屈だ」と述べた。
「『投資』は一つの国ではなく、周辺地域が一体となって行うべきだ」と強調。従来の軍事力などといったハードパワーではなく、経済、文化、科学などのソフトパワー強化を訴え、東アジアの安定のためにも、日台韓が民主主義を軸に、誰も損をしない「ウィンウィンな関係」の「民主アジア連盟」の設立を提唱。その際に、歴史上の争いは男性が引き起こしていると指摘し、21世紀は女性の力が平和のために重要になると強調した。
相互利益の日台韓連携が軌道に乗った後には、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国など太平洋に面する全ての民主主義陣営で「民主太平洋連盟」を組織するビジョンも語った。
中国と台湾の関係について、台湾人の祖先の多くは中国大陸から移住していると指摘。中台の理想的な関係は「遠い親戚として良い近所関係を維持すること」だとした。
呂氏は、中国が台湾を自国の一つの「省」と見なしていることについて、日清戦争後に締結された下関条約(日清講和条約、1895年)で地位が確定していると語った。同条約では、朝鮮の独立が初めて認められると同時に、台湾が清朝から日本に割譲されたと主張。「中国は台湾を不可分の領土だと主張しているが、歴史を正確に直視すれば、中国は台湾を手放した。中国の主張は誤りだ」とした上で、「中国は歴史を直視すべき」だと言い切った。
また、中国が「一つの中国」の下、台湾を「統一」(Unification)しようとしていることについて、「統合」(Integration)を目指すべきだと指摘。「統合」であれば欧州連合(EU)と同じような形態になると述べ、将来的に新疆ウイグル自治区、モンゴル、チベットを含めた「中華連邦」の形成を目指すのが地域の安定に望ましいとの考えを示した。
来年の台湾総統選挙については、行政経験が豊富な与党・民進党の頼清徳・副総統が「次期総統に一番近い人物」と評価した。