
来年の1月13日の台湾総統選まで半年を切り、従来の民進党と国民党の一騎打ちの構図に割って入る第3勢力・民衆党の柯文哲・前台北市長(63)の動きに関心が集まっている。台湾史上、二大政党以外から総統が誕生したことはない。仮に当選することになれば、台湾政治は“未知の領域”へと進むことになるだけに中台関係への影響を含め動向が注目される。(村松 澄恵)
民間の各種世論調査で、第2野党・民衆党党首の柯氏は最大野党・国民党候補の侯友宜・新北市長(66)を抑え、支持率2位を保っている。首位は与党・民進党党首で、蔡英文総統の後継として出馬する頼清徳・副総統(63)。民間シンクタンク「台湾民意基金会」が先月25日に発表した世論調査の支持率では、頼氏36・4%、柯氏27・8%、侯氏20・2%となった。
柯氏は「民進、国民両党以外の選択肢が必要だ」として2019年に民衆党を設立し、初代党首に就任した。民衆党は現在、立法院(国会)で全113議席中5議席を獲得している。著名な外科医だった柯氏は、14年の統一地方選で無所属で台北市長に初当選。18年に再選を果たした。柯氏は、対中政策で世論を二分し、長年政権を奪い合ってきた二大政党を疎(うと)ましく思う若者や無党派層の受け皿となってきた。今年の春頃から飛ぶ鳥を落とす勢いで支持率を伸ばしてきたが、ここに来て伸び悩み始めた。
その理由として考えられているのは、国民党が先月23日に行った党大会で、低迷する侯氏を改めて党候補として押し出したことだ。これにより、党内にあった侯氏交代論が打ち消されたことで、柯氏を支持していた人々の中で国民党寄りだった人々の支持が流れたのではと予想される。
また、女性蔑視と取れる発言を繰り返したことで、若い女性の支持も一部流れた。柯氏は住宅高騰に対する政策や、ライブでダンスや歌を披露するなどして、若年層の支持を集めて伸び悩みを打開しようとしている。
柯氏は自身の政治姿勢を「中道路線」としているものの、「両岸一家親」(中台は一つの家族)などと中国に擦り寄る発言も過去に多くあった。台北市長時代に上海との都市間交流を行った実績を基に、中国と経済・文化面の交流を推進するとしている。
中国側からすると、台湾は長年、民進党と国民党のどちらが政権を担っても、中国側が望む中台統一の展開に近づけなかった。民衆党の柯氏は中国政府にとって新たな選択肢となる可能性がある。
一方、鴻海精密工業創業者の郭台銘氏が総統選へ向けて、独自の動きを見せている。郭氏が出馬した場合、台湾民意基金会によると支持率はそれぞれ、頼氏33・9%、柯氏20・5%、侯氏18・0%、郭氏15・2%となった。
柯氏は5月31日、郭氏と手を繋(つな)いでいる姿をメディア関係者に見せるなどし、懇意であることを印象付けた。郭氏と総統選で協力関係を築くのではとの臆測も流れている。先月29日に行われた柯氏のライブでは、郭氏から「一人だと歩くのは早いが、仲間とであれば遠くまで行ける」というメッセージと共に花が贈られた。
郭氏は4人の中で最も中国寄り。柯氏の支持者は無党派層が多く、親中派の郭氏と協力関係を結んだ場合、中国を嫌う支持者を遠ざけるのではと考えられるが、一部では郭氏を副総統にとする声も根強い。