香港の大学で増える中国教員 中国化で独自文化研究に暗雲

失望した香港人学者は海外へ

2月21日、香港中文大学で行われた大学評議会の討議風景=香港中文大学の公式ウェブサイトより

香港での反体制的な言動を取り締まる2020年6月の国家安全維持法(国安法)制定前後を機に香港の主要大学の教職員、研究者の間で香港の中国化が着実に進んでいる。過去4年間で中国本土出身の教員が35%増加し、逆に香港の将来に失望した香港の学者、研究者が海外に移民流出する動きが加速。香港の郷土愛、特色を生かした研究発展を阻み、中国の一都市にすぎない発展のみが奨励される教育環境に様変わりしつつある。(南海十三郎)

香港政府系の大学教育資助委員会が発表した香港の主要8大学(香港大学、香港中文大学、香港科学技術大学、香港理工大学、香港城市大学、香港バプテスト大学、嶺南大学、香港教育大学)での教員・研究者数の過去4年間の増減動向を見ると、中国本土(香港、マカオ、台湾以外の中国本土出身者)の教員数は35%に急増、逆に地元の香港市民の教員・研究者数は14%減となっている。

詳細を見ると、中国本土から来た教員数は2017~18年(17年9月~18年6月)が1175人、21~22年が1592人で35%増。教員・研究者全体では24・4%から32%に急増している。香港市民の教員数は17~18年が2003人、21~22年が1722人で14%減。教員・研究者全体では41・5%から34・6%に減少し、香港市民の教員と中国本土の教員との割合がほぼ横並びとなり、今後は逆転する見通しだ。

とくに香港の理工系の名門である香港理工大学は香港市民の教員数が506人から380人に24・9%減となる一方、中国本土の教員数は154人から297人にほぼ2倍化し、香港嶺南大学でも香港市民の教員の割合が約2割減となっている。

香港の主要8大学で中国本土の学者、教員数の割合は、とくに工学部、理学部など大幅に増加。過去4年間で工学部で39%、理学部で27%増となっている。教員、研究者の離職率は21~22年度で7・4%となり、中国返還後、過去最悪。

国家安全維持法の制定や着実に進む国家安全条例の制定準備の動きに伴い、学問の自由に関して、ここ数年の香港社会での研究者の反発は強く、有能な教員、研究者が香港の現状に失望し、移民流出する動きが着実に強まっている。中国本土の教員増が著しいのは、海帰派(中国本土から欧米の大学院に留学して修士や博士を取得して帰国する人々)の中で香港での職を求める学者、研究者が増えていることが原因だ。

元来、中国本土からの移民都市である英国領だった香港は、文化大革命の前後から隣接する中国広東省や福建省などの文化的影響が強く、上海からの移民も多い。中国返還前までは宗主国の英国の影響が強く、香港の歴史文化を重視しながら独自の文化、研究が進んだ。しかし、若手の香港人研究者が海外流出し、香港に愛着があるわけではない中国本土出身者が研究者になることで、大学教員の間に中国の一国一制度の価値観が強まりそうだ。

香港城市大学教授の職を辞め、今月から英国ブリストル大学教授に就任した葉健民教授は「海帰派の学者の学術能力は、とくに学界に影響力のある論文発表、論文出版で驚異的だ」とした上で「欧米の大学でも中国本土の分校が設置され、中国本土の学者、研究者を優遇招請する動きが強まっている。とくに中国本土の学者が増えることで中国共産党批判と取られかねない学問の自由が制限される動きに抗議する若手の学者への圧力が強く、今後、中国本土の学者が大半を占めるようになれば、香港人学者はお役御免になる」と憂慮している。

中国政府は香港の青少年に香港基本法に対する教育を強化し、国家意識と愛国精神を高める愛国教育を推進している。小中学校から大学までの青少年期、反中、反共の“牙”を抜き、中国への従順な忠誠心を取り込む教育界でも中国人移民の「新香港人」が香港の教育現場の主導権を「愛国者治港」(愛国者が香港統治)で掌握できるよう着々と浸透しつつある。

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