トップ国際台湾【連載】台湾海峡は今 有事は起こるか〈8〉ウクライナの教訓

【連載】台湾海峡は今 有事は起こるか〈8〉ウクライナの教訓

戦争の残酷さ突き付ける

本紙のインタビューで、「絶対に台湾を『第二のウクライナ』にはしない」と強調した呂秀蓮・元台湾副総統(早川俊行撮影)

ロシアによるウクライナ侵攻は、台湾にさまざまな教訓をもたらした。最大の教訓は、何と言っても戦争がもたらす恐怖と破壊のリアルな現実を台湾住民に突き付けたことだろう。

「ウクライナの状況は悲劇的だ。戦争は残忍で、決して受け入れることはできない。これは台湾にとって極めて重要な教訓だ。絶対に台湾を『第二のウクライナ』にはしないと宣言しなければならない」

台湾で女性初の副総統を務めた呂秀蓮氏(78)は、本紙の単独インタビューでこう強調した。国民党の独裁政権時代に投獄を経験するなど台湾の民主主義のために戦ってきた呂氏だが、悲惨なウクライナ戦争を目の当たりにした今、中国から台湾の平和を守ることに残りの人生を捧(ささ)げる覚悟を固めていた。

【新春特別インタビュー】日台韓連携で中国に対抗を 「第二のウクライナ化」拒否 元台湾副総統 呂秀蓮氏

台湾では実際に、最悪の事態に備える動きが現れている。半導体受託製造大手、聯華電子(UMC)創業者の曹興誠氏が、台湾の防衛強化に30億台湾㌦(約130億円)の私財提供を表明したほか、一般市民を対象とした民間防衛講習に応募者が殺到していることは、本連載ですでに報告した通りだ。蔡英文政権も先月末、18歳以上の男性に義務付けている4カ月間の兵役期間を1年間へ延長することを決定した。

「黒熊学院」の民間防衛講習で包帯の巻き方を学ぶ参加者たち(早川俊行撮影)

ただ、台湾がウクライナ戦争を教訓に取り組まなければならないことは他にも山ほどある。まず何より中国軍に対抗する軍事力を強化することだ。

ウクライナがロシア軍を苦戦に追い込んだのが、対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などの携帯式兵器だった。圧倒的な軍事力を有する敵に対抗するには、こうした非対称戦能力が非常に有効であることが示された。

ウクライナとは違い、台湾は中国と海で隔たれているため、中国から攻められにくい一方、いったん有事になれば、海外から兵器供給を受けるのが困難になる。従って、平時のうちに必要な兵器を確保しておくことが死活的に重要だ。

だが、ウクライナ戦争の影響もあり、台湾への兵器供給が大幅に遅れている。昨年11月のウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、米国が台湾に売却を承認しながらまだ納品されていない兵器は187億㌦(約2・5兆円)分に上る。2015年に契約したジャベリン208基、スティンガー215基も未納だ。有事への備えを急がなければならない中で、こうした兵器調達の遅れは致命的である。

また、台湾は日本と同様、エネルギーや食糧の海外依存度が高い。米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が昨年11月に公表した年次報告書によると、台湾の備蓄は液化天然ガス(LNG)が1週間、石油が4カ月、食糧が6カ月分だという。

ウクライナのように陸続きの隣国から補給を受けられないため、有事が長期化すれば台湾にとって深刻な打撃となる。このため、同報告書は「中国は一部地域を封鎖するだけで、台湾の貿易とエネルギー供給に甚大な支障をもたらすことができる。台湾は重要資源の備蓄が限られているため、すぐに降伏する動機付けになり得る」と指摘し、中国の“兵糧攻め”が台湾を降伏に追い込むシナリオに強い警戒感を示した。

「第二のウクライナ化」を避けるために台湾が取り組むべき課題はあまりに多く、有事への備えには一刻の猶予もない。

(台北にて、早川俊行)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈1〉 澎湖諸島からの報告 (上)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈2〉澎湖諸島からの報告(下)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈3〉着上陸侵攻の現実味

台湾海峡は今 有事は起こるか〈4〉港湾権益買い漁る中国

台湾海峡は今 有事は起こるか〈5〉広がる「民間防衛」

台湾海峡は今 有事は起こるか〈6〉巧妙な中国の「認知戦」

台湾海峡は今 有事は起こるか〈7〉「生命線」の半導体産業

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