【連載】台湾海峡は今 有事は起こるか〈4〉港湾権益買い漁る中国

リアルタイムで情報収集か

中国ZPMC社のクレーンを使用している台湾・高雄港の第6ターミナル(早川俊行撮影)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈1〉 澎湖諸島からの報告 (上)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈2〉澎湖諸島からの報告(下)

台湾海峡は今 有事は起こるか〈3〉着上陸侵攻の現実味

高雄港と高雄のランドマーク「85スカイタワー」(早川俊行撮影)

観光客を乗せ、細長い港湾をくぐり抜けるように進むクルーズ船。デッキからは、巨大なコンテナ船やタンカー、海軍艦艇のほか、貨物の積み下ろしを行うガントリークレーンが間近に見える。圧巻の光景だ。

台湾南部にある高雄港は、世界第17位のコンテナ取扱量を誇り、海軍も利用する台湾最大の港湾。港湾都市という高雄の特徴を観光資源にするため、港湾内を周遊するクルーズ船が運行されている。

クルーズでは片道40分間にわたり、視界を遮るほどの巨大な船舶や港湾施設が次々に現れる。世界の物流を支える港湾のダイナミックさを存分に体感できる。

巨大な船舶のすぐ隣を通るクルーズ船(早川俊行撮影)

クルーズ船が折り返し地点の紅毛港という船着き場に近づくと、「ZPMC」の文字が入った赤いクレーンが見えてきた。ZPMCとは港湾クレーン世界シェアトップの中国国有企業、上海振華重工のことだ。

「ZPMC」の文字が見える高雄港第6ターミナルのクレーン(早川俊行撮影)

船着き場の隣に位置する第6ターミナルで、中国製クレーンが使われているのは、決して偶然ではない。中国国有海運大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)などが同ターミナルの権益を持つ高明コンテナターミナル社の株式を取得しているほか、コスコに買収された香港の海運会社がここで二つの埠頭(ふとう)を運営している。

中国が台湾への着上陸侵攻を行う場合、大量の兵力を送り込む拠点として港湾を占拠する可能性が高い。それだけに、中国が台湾で港湾の権益を取得しているのは不気味である。コスコは保有する高明コンテナターミナルの株式を30%に増やしたとの報道もある。

中国が世界中で港湾の権益確保を進めていることは周知の通りだ。最近ではドイツ最大の港湾、ハンブルク港のターミナルにコスコが出資したことが大きな波紋を広げた。米海軍大学のアイザック・カードン助教授によると、中国企業が権益を持つ海外の港湾は2020年7月時点で95カ所にも上る。

高雄港に停泊するコンテナ船とコンテナを積み下ろすガントリークレーン(早川俊行撮影)

世界各地の同盟国に軍事基地を持つ米国と違い、中国の海外基地は現在、アフリカ北東部のジブチにしかない。中国が海外の商港の権益確保にこだわるのは、海軍の補給拠点としての利用を視野に入れているためとみられている。

商港は戦時に軍事利用が制限される可能性があるため、完全には基地の代替にはなり得ない。それでも、見落としてならないのは、港湾が「情報の宝庫」であるという事実だ。

カードン氏は、中国企業の港湾権益が戦略的に重要な地域に拡大・集中していることから、「中国企業とその施設の使用を許可された中国軍関係者は、米海軍艦艇の位置や人員など貴重な情報を収集することが可能だ」と指摘している。

中国が台湾の港湾情報も手に入れていることはほぼ間違いない。米シンクタンク「プロジェクト2049」のイアン・イーストン上級部長は21年に発表した報告書で次のように警告している。

高雄港に立ち並ぶガントリークレーン(早川俊行撮影)

「高雄港や台北港などに導入されているZPMCの自動指揮統制システムは、港湾内に設置された監視カメラからの情報を集中管理している。ZPMCは中国人民解放軍と密接な関係にあるため、自動監視システムが中国にデータを送信し、中国軍が台湾の港湾情報をリアルタイムで継続的に収集できることはほぼ確実と思われる」

使えるものは何でも利用するのが中国の軍民融合政策。台湾の港湾でも中国の野望がうごめいている。

(高雄にて、早川俊行)

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