台湾では2024年1月の総統選の前哨戦となる統一地方選が26日の投開票に向けて終盤戦を迎えている。親中派の野党・国民党が優位を保ち、与党・民進党は22の県市首長ポストの3割前後しか獲得できない予想も出る苦しい選挙戦だ。地方都市の生活改善や経済発展など候補者の実務実績が最大限、評価される地方選では現職優位で中国の脅威への対中政策は優先順位が低く、民進党内のスキャンダルも影響している。(南海十三郎)
4年に1度の統一地方選は台湾全土で22の県と市の首長などを選ぶ。与党・民進党は現在、7県市の首長職を得て国民党は14県市を確保して野党優位が続く。地方選は1期目の施政満足度が一定以上ある場合は有権者から続投支持を得られやすく、現職有利。3分の2を占める国民党が優勢だ。「国政が与党なら地方自治は野党」で過去の苦い歴史からバランスを取ろうとする台湾人無党派層の一党独裁拒否感覚が選挙心理に表れやすい。
民進党は「現状死守を勝敗ライン」としているが、直轄市6市(台北、新北、桃園、台中、台南、高雄)のうち、激戦の台北市、桃園市、新竹市の市長選で敗れれば目減りし、大敗する。台湾の大手ニュースサイト「ETtoday」の最新世論調査(15日現在)結果では直轄市6市のうち、与党・民進党が獲得できるのは台南市と高雄市の2市のみと報じており、民進党が惨敗すれば次期総統選での危機感は高まりそうだ。
統一地方選は、与党の民進党、最大野党の国民党、柯文哲台北市長が率いる台湾民衆党の各陣営にとって蔡英文総統の任期満了に伴う2024年1月の次期総統選の前哨戦となる。とくに台北市、桃園市、新竹市の各市長選は同地方選の勝敗を分ける最重要選挙区だ。
台北市長選では、三つ巴(どもえ)の接戦だが、蒋介石のひ孫の蒋万安候補(国民党)が抜群の知名度と人気で頭一つリードし、抜け出してきている。柯文哲台北市長が支持する元台北市副市長の黄珊珊候補(無所属)、前衛生福利部長(衛生相)の陳時中候補(民進党)が続いている。
首都奪還を目指す民進党は、コロナ禍初期に対策責任者として真摯(しんし)なメディア質疑応答など絶大な世論支持を集め、蔡政権で民間登用された歯科医、前衛生福利部長の陳時中候補を擁立したが、台湾製コロナワクチン問題や8月下旬、台北市内のゲイバーで飲酒してマスクなしで遊ぶ姿を親中系メディアに集中砲火されるなど、伸び悩む。
桃園市長選は元行政院長(首相)の張善政候補(国民党)がリードし、立法委員(国会議員)の鄭運鵬候補(民進党)が急追。鄭宝清候補(無所属)、頼香伶候補(民衆党)が続く2強2弱。鄭文燦市長が2期続けて行政手腕を評価され、民進党は鄭文燦市長の肝いりで前新竹市長の林智堅氏を擁立すると発表していた。しかし、林氏が自身の台湾大学と中華大学の修士論文盗作が指摘され、学位を抹消されて出馬を辞退。過去2期、民進党が奪還して信頼回復した貴重な北部直轄市が失点続きで覆される事態となり得る。
新竹市では、立法委員の高虹安候補(民衆党)がEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手、鴻海精密工業の創業者である郭台銘氏が支持を表明してリード。元新竹市副市長の沈慧虹候補(民進党)、新竹市議会議員の林耕仁候補(国民党)が続いている。
台湾最大の人口を持つ新北市長選では現職で次期総統選の国民党候補として有力視される侯友宜候補が前交通部部長(交通相)の林佳龍候補(民進党)を大きく引き離しており、林陣営は「総統選に出馬するなら半年しか市長の職務が全うできない」と批判しているが現職有利に変わりがない。
シンクタンク「台湾民意基金会」の世論調査(22年10月)によると、蔡英文総統に対する支持率は51・2%で歴代政権と比較しても高く、政党支持率も民進党は33・5%。国民党18・6%、民衆党15・8%を大きく引き離しており、対中政策が大きく左右する総統選と地方自治の施政満足度審判の違いが民進党への灸(きゅう)を据える薬石の言と受け止める結果となりそうだ。