カンボジアで人身売買 台湾社会が震撼 「高収入」に騙され多数被害

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カンボジアで人身売買の被害に遭った24歳の台湾人(左)(本人のインスタグラムより)

カンボジアをはじめとした東南アジアで高収入の仕事があると誘われた台湾人が現地でパスポートを取り上げられ、人身売買される事件が多発し、台湾社会を震撼(しんかん)させている。中には、詐欺への加担の強要や強姦(ごうかん)、臓器売買の被害に遭うケースまで起きている。(村松澄恵)

 「とても気分が落ち込んで、建物から飛び降りて死んでしまいたかった」

今月中旬、震える声で台湾メディアに自らの体験を語ったのは被害に遭った24歳の女性だ。新型コロナウイルス禍の影響で職を失ったため、フィリピンでアルバイトをしていた時に、ある台湾人男性と知り合いになった。男性から2万5千米㌦(約340万円)の仕事があるからカンボジアで働かないかと勧められ、迷った末に6月25日に渡航した。

カンボジア南部の港湾都市シアヌークビルに到着すると、仕事を紹介した男性とは連絡が取れなくなった。パスポートは取り上げられ、施設の中に閉じ込められた。外にはスタンガンを持った見張りがいたという。

女性を監禁したグループは、協力者に2万5千米㌦の仲介料を支払ったとして、解放されたければそれ以上の金額を払うか、詐欺への加担を迫った。

女性は世界各国で詐欺被害者を支援する「国際反詐欺組織(GASO)」の助けによって解放されるまでの7日間に非人道的な扱いを受け、4回も身柄を転売された。2回目に売られた場所では「性行為を強要された」と話し、顔を曇らせた。

現地では、血液を売るために血を抜かれて殺された人や、病気になっても治療も食事も与えられずに餓死した人が遺棄されるケースもあったという。

警察に4度通報をした人は見せしめに丸1日暴行を受けていたとし、女性は「詐欺グループは現地の警察に賄賂を渡しているから通報しても意味がない」と語った。

台湾では若者の貧困が社会問題となっている。インターネット交流サイト(SNS)で「高収入で学歴を問わず、飛行機代不要、居住費、食費の心配なし」といった情報を見た若者らが騙(だま)された。

台湾では人身売買に加担した人々が次々に捕まっている。中には計36万台湾㌦(約160万円)で同級生2人を売った18歳の少年もおり、台湾社会を騒然とさせた。

カンボジアの中国大使館は20日、「台湾人は中国の公民だ。困ったことがあれば中国大使館を頼ってほしい」といった内容の文章をホームページに公開した。台湾の呉釗燮外交部長(外相)は同日、「カンボジアでの詐欺の案件は中国の一帯一路の弊害である」と批判した。

シアヌークビルは巨大経済圏「一帯一路」構想を打ち出した中国からの投資でカジノ建設が相次ぎ、「第2のマカオ」と呼ばれるまでになった。20万を超える中国人が移住し、犯罪の多発などさまざまな問題が発生した。カンボジア政府は2020年1月からオンラインカジノの営業停止を行った結果、都市は詐欺集団の温床となった。

21年に中国の地方政府は詐欺グループ撲滅の名の下、東南アジアなどで詐欺を行う中国人を国内に戻す政策を進めた。5万人を超える中国人が帰国し、詐欺集団は人手が足りなくなった。そのため、同じ言語を話す台湾人や中華系のマレーシア人らに目を付けたとされている。

台湾外交部(外務省に相当)の周民淦東アジア太平洋司長(局長)は15日、今年1月から6月までに6481人がカンボジアに渡ったが、戻ったのは約3400人ほどだと発表。内政部(内政省)刑事警察局によると、22日の時点で助け出された被害者は72人にとどまっている。

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