南太平洋国家の台湾断交 中国、軍事拠点化狙い布石

切り離し戦略を警戒する米豪

4月22日、ソロモン諸島の首都ホニアラで、政府との会談を終えて退出する米国国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官(左から二人目)(AFP時事)

現在、国際社会の耳目がウクライナに集まっている。しかし、その裏側で中国が着々と南太平洋における覇権確立を目指す行動を進めていたことが、台湾をはじめ米国やオーストラリア(豪州)などの民主主義国家に衝撃を与えている。(台北・早川友久)

4月19日、ソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結したことが豪メディアによって報じられた。協定には中国船舶の寄港や軍などの派遣要請を可能にする項目が含まれていると言い、そのため、南太平洋の要衝に位置するソロモンをめぐって、米豪と中国の応酬へと発展した。

中国とソロモンの協定締結には伏線がある。まず、2019年にソロモンが台湾と断交して中国と国交を樹立すると、ソロモン第二の州であるマライタでは対中傾斜を深める政権に反発の声が高まり、ソガバレ首相の退陣を求める不信任投票が行われたが、結果は不成立だった。

しかし中国寄り外交への不満は、首都ホニアラでの暴動へと発展し、要請を受けた豪州から軍や警察が派遣されたことは記憶に新しい。この派遣は17年8月、豪が南太平洋における初の二国間安全保障条約としてソロモンと結んだ条約に基づくものだった。その一方でソロモンが中国と内容不透明の協定を結んだことで、米豪は疑念を募らせたのである。

米政府は早速、国家安全保障会議のカート・キャンベル・インド太平洋調整官を派遣し、ソガバレ首相と会談させた。席上、キャンベル氏は「中国軍が実質的にソロモンに駐留することになれば米国は対抗措置を取る」と言明したが、同時にソロモンにおける米国大使館の開設を急ぐことも表明している。

ソロモンがこれほどまでに米豪の関心を集めるのは、ソロモンが地政学上、戦略的重要性を持つからである。ソロモンは、豪州の北東に位置し、豪州の首都キャンベラや第二列島線の要衝であるグアム島の米軍基地から約3000キロメートルの距離にある。ソロモンからキャンベラやグアムへの距離は、台北から東京の距離の1・5倍にすぎない。

仮に中国がソロモンに軍事基地を建設すれば、中国はグアムの後方で待ち伏せすることが可能になり、米豪の連携にとって大きな脅威となることが懸念されている。ソロモンのガダルカナル島が大東亜戦争で激戦地となったのも、こうした地理的な要因にある。

実は中国の南太平洋における脅威が注目されたのはこれが初めてではない。昨年5月、やはり南太平洋の島国であるキリバスのカントン島で、中国が第2次世界大戦中に米軍が使用していた滑走路の修復を計画していることが野党議員によって暴露された。実際の修復にはまだ着手されていない模様だが、仮にキリバスが中国との関係を深めれば、やはりハワイまで3000キロメートルの距離に中国の軍事拠点が出現する可能性は否定できない。

キリバスは80年に中国と国交を結んでいたが、03年に断交して台湾と外交関係を樹立。しかし、ソロモンと同様、19年に台湾と断交して中国と復交を果たした。その結果、中国は太平洋の要衝であるソロモンとキリバスとの国交を手にしたことになり、この地域における外交戦は中国優位に傾きつつある。中国の目的である米豪のデカップリング(切り離し)が現実味を帯びれば、太平洋における米国の軍事行動の自由を大きく毀損(きそん)することになるだろう。

豪州は、20世紀のほぼすべての戦争を米軍と共に戦った太平洋における唯一の米国の同盟国である。日米豪印戦略対話(クアッド)だけでなく、昨年9月にスタートした米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」のメンバーでもある。

ソロモンとキリバスの例は、中国が太平洋における覇権確立のために、従来の経済支援による攻勢だけでなく、台湾の国交国を奪う作戦を着々と進めてきたことの証左。今後、中国は国交国と共にさまざまな協力関係を積極的に展開することになる。南太平洋における中国の脅威はもちろん米豪だけの問題ではない。民主主義陣営の一員として、日本も積極的に注視し関与していく必要がある。