
尹錫悦大統領(当時)による「非常戒厳」宣布という驚くべき“敵失”を巧みに政治利用し、昨年の大統領選で当選した李在明氏は、就任1年目から尹氏とその支持勢力だった保守系最大野党「国民の力」などをターゲットにした「内乱清算」に没頭しており、今年もこれに執着するものとみられる。
その短期的な目的は、6月に実施される統一地方選での与党勝利だ。現在、李氏は「内乱清算」ムードを最大限に引っ張り、保守派のイメージダウンを長期化させようと躍起だが、戒厳令による軍出動という衝撃的残像がいまだ残る国民には、一定の効果があるようだ。
最近の各種世論調査で李氏の支持率は50%台後半から60%に達しており、こうした状況を追い風に17広域自治体の首長選や同時に実施される国会議員補欠選挙を有利に進めたい考えだ。
また長期的目的は、「革新派による長期執権」(野党関係者)だ。李氏は就任半年の記者会見で尹氏の戒厳令を支持した保守派を「ナチス戦犯」になぞらえ、「生きている限り」処罰すべきだと述べた。
ただ、三権のうちまだ掌握していない司法への影響力を確保しようと無理に進める「司法改革」には批判も多く、やり過ぎへの反発が広がる可能性はある。
自身が抱える裁判をうやむやにさせる人事や検察への圧力、「改革」と称して都合の悪い判決が出ないようにさせる大法院(最高裁)の判事増員や四審制導入の検討などは、識者から「すでに自由民主主義国家の体をなしていない」との指摘も出ている。
一方、これまで「実用主義」を標榜(ひょうぼう)し、革新的な理念を封印する姿が目立ってきた外交では、米韓同盟や日米韓連携を重視してきた魏聖洛・国家安保室長らの「同盟派」と、中朝への接近を主張する「自主派」との路線対立が進む可能性がある。「自主派」が主導権を握った場合、日米との協力関係がぎくしゃくし始める恐れもある。
李氏は13日、尹前政権時に復活した日韓シャトル外交を踏襲し、就任後初めて来日して高市早苗首相と首脳会談を行った。今回は首相の地元・奈良での開催となり、表面的には両首脳の親密ぶりがアピールされた。
だが、議題には戦前に多数の朝鮮半島出身労働者が水没事故で犠牲になった長生炭鉱(山口県宇部市)の問題も含まれた。歴史認識などの火種で反日運動の先頭に立つ韓国革新系市民団体の求めに李氏が応じた形だ。今後、李氏が反日に舵(かじ)を切らないかは予断を許さない。
首相の国会での台湾有事関連発言を巡り日中が対立する中、李氏は先日、訪日に先駆けて中国を国賓訪問したが、習近平国家主席から事実上の対日共闘を呼び掛けられた。日米が中国と対立する懸案で静観の構えを崩さない李氏の「八方美人的な外交」(政府傘下機関関係者)に日米が難色をにじませる可能性もある。
そもそも李氏は「自主派」に近く、実際、北朝鮮への融和策も出始めている。一方的経済支援などで北朝鮮の核・ミサイル開発を結果的に助長した「第二の盧武鉉・文在寅政権」になる兆しと見る向きもある。
トランプ米大統領は今年、ノーベル平和賞の受賞や中間選挙前の実績作りとして金正恩総書記との首脳会談を推進する可能性があるが、その際、韓国の「自主派」が米朝の架け橋をし、会談実現に向け動きだすことも予想される。
李氏とトランプ氏の利害が一致した場合、非核化が置き去りにされ、核軍縮で「成果」が強調されることも起こり得る。日本が対北抑止で孤立する事態は避けたいところだ。
(ソウル・上田勇実)
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